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評者◆秋竜山
リンカーンの最高のジョーク、の巻
No.3362 ・ 2018年08月04日




■歴史上の人物になるには、一つでいいから、この言葉あって、この人あり、のような名文句のようなものを残しておくべきだろう。まあ、たいがい有名な人物は有名なひとことを残しているものだ。たとえば、だ。「人民の、人民による、人民のための政治」と、いえば即座に「リンカーン」と、答えられるだろう。リンカーンと言っただけで、この言葉が出るものだ。よく考えてみると、歴史に名を残すような人物は、ひとことでもいいことを言っている。きっと、言わなかった人はいないのであろう。と、いうことは、名文句も残っていない人は歴史上の人物になれないのではないか。あの人物は間違いなく歴史に残るような人物であるが、残念ながら「ひとこと」が残っていなかった。と、いうようなことは、ありえないだろう。
 町山智浩『映画と本の意外な関係』(集英社インターナショナル新書、本体七四〇円)で、〈リンカーンのユーモア〉という中で、あの歴史上の人物が出てくる。誰でも知っている。学校の教科書に出てくる人物であったからだ。もし、教科書に出てこなかったら、誰でも知っているというわけにはいかなかっただろう。「エ? リンカーンて、何なの」と、いうことになるだろう。そういう意味では国民的有名人になるには、教科書にのるということである。リンカーンがそうであった。
 〈スティーヴン・スピルバーグ監督の「リンカーン」(2012年)は奇妙な伝記映画だ。リンカーンといえば「人民の、人民による、人民のための政治」で有名なゲティスバーグの演説、それに奴隷解放宣言、そして暗殺だが、この映画には、そのどれも画面には登場しない。描かれるのは、奴隷制を永久に禁止する合衆国憲法修正第十三条を下院議会で通過させるまでのほぼ一カ月の駆け引きだけなのだ。〉(本書より)
 誰もが知っているリンカーンである。もっとも、くわしいことは全く知らないけどね。そして、リンカーンはジョークの名手であったということを誰もが知らなかったのではなかろうか。何冊もの本になっているというから、かなりのものである。リンカーンといえば、すっごく手足の長い人物が椅子に座っているということぐらいしか知らない。あの写真の人物がジョークばかり言って、まわりの人を困らせたなんて知っているわけがない。
 〈リンカーンが語ったジョークは何冊もの本にまとめられているほど量が多い。彼は深刻な閣議の最中も「こんな話を知ってるかね?」と小咄を始める。真面目に聞いているとナンセンスなオチがつくので、周囲の人々はうんざりしたらしい。映画「リンカーン」の中でも、エドヴィン・スタントン陸軍長官(ブルース・マッギル)が「大統領の長話を聞いている暇はないんです!」と怒鳴って出て行ってしまう場面がある。それでも、リンカーンは話をやめない。〉(本書より)
 いつもジョークばかり言っているリンカーンに、どうしてかと尋ねたところ、リンカーンは答えた。「笑わないと死んでしまうからだよ」。リンカーンはうつ病だった。あの「人民の、人民による、人民のための政治」というのも実はジョークだったりして。だとしたら最高のジョークといえるだろうけど、ね。







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