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評者◆小嵐九八郎
なぜか虚無主義とは映らない
西部邁 自死について
富岡幸一郎編著
No.3362 ・ 2018年08月04日




■自裁する前の西部邁については複雑な感情で外から見ていた。ブントが導いた60年安保の全学連の幹部だったが、保守思想へと舵を切ったことが当方には論より以前の気分の問題として壁となっていた。
 が、今年の大寒の凍てのなか、肉体的にはよろよろのはずだったのに敢えて多摩川に入水して自死を為し、しかも確信的な信奉者二人の協力を得てできたことに「おいーっ」となった。その後のあれこれの報道では「飲み屋の帰りの電車の車輌がスマホだらけで嫌い、車で帰った」というのもあり、俺の感覚と似ていて感情が変わった。
 それで読んだのが『西部邁 自死について』(富岡幸一郎編著、本体1800円、アーツアンドクラフツ刊)だ。生きること、師、死ぬことなど、当方の思いや感性とは異なるのであるけれど、要、核、「ここっ」を突いていて呻いてしまった。左翼にさようならする理由も知った。
 羅列すると、一つ、左翼への離脱が、60年安保の時に既に孕んでいた共産党などとの党派闘争がメインであったこと。俺は西部邁より五歳若い世代で、早大だったので学生運動をやることは対権力と党派闘争の前提であったが、やはり、内ゲバは道義性を含めて重かった。内部の争いは、もっときつかった。ゆえに、西部邁の感覚はかなり解る。
 二つ。決して過ぎた思い入れはしていないし、むしろクールなのであるが、妻と知り合って59年間のその彼女を看取る時の、文章の背中にある切実さと、自らの死に重ねて共振する論理の突き詰め方に凄みがある。「ああ、愛なんだなあ」と思わず長い吐息をついた。
 三つ。これはもっと議論の的にしていかねばならないが、「生命は人間の徳義達成のみに意義」と時代も俺も忘れかかっているテーマを出してきて冷やり。やたら無理に生の延命による「死ねないことが死ぬほど怖い」の論理もなぜか虚無主義とは映らない。
 もっとも、富岡幸一郎氏の「まえがき――「死」を超えた問いへ」と、総括的な「自死の思想」の文を読んだから俺は“理解”ができたのだけれど。







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