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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3361 ・ 2018年07月28日




小さく、そして大きく成長する少女の物語
▼アヤンダ――おおきくなりたくなかった おんなのこ 
▼ヴェロニク・タジョ文/ベルトラン・デュボワ絵/村田はるせ訳

 西アフリカの赤道近くに位置するコートジボワールの女性作家、ヴェロニク・タジョは、アフリカの子どもたちのための絵本や物語集を手がけてきました。コートジボワールはかつてフランスの植民地で、独立後も絵本はフランスから輸入されたものが中心でした。タジョはそんな状況に心を痛め、アフリカの伝統に根ざした、アフリカの子どもが主人公の絵本を作ってきたのです。本書もその一冊です。
 主人公のアヤンダは、大好きなおとうさんを戦争で亡くしました。戦争なんて大きらい! もう大きくなんかならない! 彼女はそう決めます。まわりの子が大きくなっていくのに、小さいまま。でもお母さんが病気になってしまい、アヤンダは家族を助けるために、少し大きくなります。村に強盗がやってくるとバオバブの木ほどに大きくなって強盗を追い払い、村人を助けます。けれども大きくなりすぎ、家に入れなくなってしまった。はてさて、アヤンダはどうなるのでしょう。
 「大切なだれかをなくしたとき、その人の心がいやされ、ふたたび社会のなかで生きられるようになるにはいくつかの段階を経る必要があると、この絵本で描きたかったのです」とタジョはいいます。この物語には、困難を乗り越えるためのファンタジーの力が込められています。(4月刊、A4変型判三二頁・本体一五〇〇円・風濤社)


人類が過ちをくりかえさないために
▼ある晴れた夏の朝
▼小手毬るい
 二〇〇四年八月七日。原爆が投下されたあの日のように晴れわたった、すがすがしい夏の朝。アメリカ東海岸の町で、原爆投下の是非を問いながら、人類の永遠のテーマ「戦争と平和」について高校生が語り合う討論会が開かれた。広島に原爆が投下された八月六日、長崎に投下された八月九日という、ふたつの日付にはさまれたこの日は、原爆をめぐって議論するのにふさわしい。本書は高校生たちの議論をえがいた物語である。
 原爆肯定派のリーダー、ノーマンは、原爆がいかにおそろしい武器であるかを数字によって強調しつつ、数量化という抽象化によって生身の人間の「肉体」や「感情」を隠そうとする。トルーマン大統領は戦争を一刻も早く終わらせるために原爆を使用した、落としていなければ一年で広島と長崎の死者数以上の人が死ななくてはならなかった、だから大統領の決断は正しかったと主張する。同じく肯定派のケンは「パールハーバーを忘れるな!」を引き合いに、原爆はそのリベンジだったと述べる。エミリーは「南京虐殺を忘れるな!」と叫び、原爆投下は罪もない中国人が受けた苦しみの報復であり、正当な行為だったと主張した。
 原爆否定派は、原爆はリベンジや戦争終結のためなどではなく、落とす必要のなかったもの、新兵器の人体実験であり、人種差別に他ならない悪だと述べた。対して肯定派はさらに進め、広島平和記念公園のなかにある原爆死没者慰霊碑の〈安らかに眠ってください 過ちは 繰返しませぬから〉は日本人自らが過ちを懺悔し反省している証だ、核兵器は平和維持のためで悪ではなく、世界平和を実現する必要悪だと結んだ。
 否定派のメイはこの必要悪論に反論するつもりはなかった。代わりに母から教えられた、「あやまちはくりかえしません」の主語は日本人だけでなく、アメリカ人でもあり世界=人類でもあることを聴衆に語りかける。人類はあやまちを二度とくりかえさない、これは誓いと決意なのだと。原爆投下の是非が問題なのではない、原爆そのものを認めてはならない。そのことを夏の日にかみしめる本だ。(八月刊、四六判二〇六頁・本体一四〇〇円・偕成社)


七二時間サバイバルをどう乗り切るか
▼もしときサバイバル術Jr.――災害時に役立つスキルを手に入れろ!
▼片山誠
 先日の台風による豪雨で、西日本各地は甚大な被害をこうむった。こうした災害が起こったとき、私たちはどうすればいいのか。この本は災害時のサバイバルの知識とスキル、心がまえを身につけるためのハンドブックである。
 救助を呼ぶことも大切なサバイバル能力だと著者はいう。地震が発生したとき、どのようにして助けを求めるか。何を持ちだすか。ガスや水道などのライフラインが途絶えたとき、どうやって火を起こし焚火をするか。水が使えないときトイレはどうするか。サバイバルの道具をどう使うか。実に懇切丁寧に図解されている。応急手当の仕方、避難所での共同生活、チームワークのあり方まで、豊富な内容が盛り込まれている。
 災害発生から三日間、七二時間の動きが救助の勝負を決めるという。この「七二時間サバイバル」をどうこなすか。必携のプログラムがここにある。(5・30刊、A5変型判一二八頁・本体一四〇〇円・太郎次郎社エディタス)


絶滅危惧種の動物たちはいま
▼だいじょうぶかなあ森や海――絶滅しそうな動物たちとそのくらし
▼エレナ・パスカリ文/ティナ・マクノートン 絵/女子パウロ会訳
 絶滅危惧種の動物たちはどんな暮らしをしているのでしょう。現実にジャイアントパンダやアフリカゾウなどは数がどんどん減っています。そんな絶滅危惧種の動物たちをえがいた絵本です。
 パンダは中国の高い山に住んでいますが、木が切られて食べるものがなくなっています。人間が田畑を広げて、ゾウが動き回ることのできる場所が狭められています。ユキヒョウやイルカ、ホッキョクグマの棲む場所も、どんどん少なくなっています。ヤク、レッサーパンダ、アシカ、オカピ、スプリングボック……。動物たちのくらしはだいじょうぶかなあ、人間も動物もともに幸せな未来が訪れるといいなあ。そんな願いがこめられています。(11・1・25刊、21・3㎝×20㎝三二頁・本体一四〇〇円・女子パウロ会)


山の怪物巨人と化したおっちゃん
▼おっちゃん山
▼椎名誠作/塚本やすし絵
 作家の椎名誠さんと、絵本作家の塚本やすしさんのコラボレーションによる、すべてのおっちゃんに贈る絵本が誕生しました。山のぼりが好きなおっちゃんは、平日の会社勤めに耐えながら、休みに山へ行くのを心待ちにしています。そんなある日、でかけた山でうっかり「デロデロ虫」にかまれてしまいました。このデロデロ虫にかまれると、どんどん体が大きくなって、ついには山の怪物巨人と化してしまいます。おっちゃんも巨大化して、もはや家族の誰も気づかないほど、山そのものとなってしまいました。長い年月がすぎ、おっちゃん山を訪ねた子どもたちは……。やはりおっちゃんの一人である私も、なんだか身につまされるお話です。(5・30刊、A4変型判三二頁・本体一五〇〇円・新日本出版社)


赤い車が運ぶ言葉の数々
▼赤い車
▼川越文子詩/福田岩緒絵
 タイトルにある赤い車が、この本の詩の全篇に出てきます。育児真っ最中の母親が運転する赤い車を送迎し、励ましているうちに、赤い車が自然に詩になったのだと、著者で詩人の川越さんは書いています。たとえば第二章「哲学する 夏」に収められた「どうしても」の一節。「赤い車は知っている/自分で自分を見ることはできないのだ/どうしてもできないことは/確かにある」。この詩が生まれたのは、「あきらめの安らぎ」を手に入れたときだったそうです。手に入らないものを求めるより、いまあるものに感謝しよう。そんな思いが込められた詩です。詩集の末尾に置かれた「風に訊く」の一節には「何のために走っているのか わからなくなるときがあってさ/……/走るために走っているのさ。そういうものさ」とあります。赤い車が運ぶ風に訊いた言葉です。(6・26刊、A5判一〇四頁・本体一六〇〇円・銀の鈴社)







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