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評者◆秋竜山
脇役の存在、の巻
No.3351 ・ 2018年05月19日




■主役と脇役の違いは、主役はドラマに出ずっぱりなのに対して、脇役は出たり出なかったり、あらわれたりひっこんだりである。「今回のドラマは、脇役陣をかためていますから、間違いないということです」なんて、いう。いかに脇役の存在によってドラマのよしあしが決まるかだ。主役はダイコンでいいけど、脇役がダイコンでは困る。濱田研吾『脇役本 増補文庫版』(ちくま文庫、本体一二〇〇円)は、脇役ばかりが出てくる本である。脇役でなつかしい俳優がいた。吉田義夫(一九一一~八六)である。悪役専門役者といってもいいだろう。私は子供の頃、この悪役オヤジがなんともいえなく好きであった。あまりのにくたらしさに石をぶつけたくなるほどであった。だからこそ好きであった。吉田義夫が出る映画は面白かった。ハッキリいって主役よりも脇役の吉田義夫のほうが好きであった。
 〈ひろく親しまれたのはやはり、東映時代劇の悪役だろう。昭和二十九(一九五四)年に東映京都の専属となり、時代劇が衰退する三十年代末まで、百本はゆうに越える時代劇映画に出た。そのすべてが脇役で、吉田義夫主演の東映映画は一本もないはずである。〉〈悪役といっても、山形勲の黒幕タイプ、沢村宗之助の商人タイプ、戸上城太郎の剣豪タイプとは立ち位置が少しちがう。浪曲映画「赤穂義士」(東映)では吉良上野介を演じつつ、得意なのは「三日月童子」「風雲黒潮丸」といったお子さま向けの東映プログラムで、おおいに子どもたちへ顔を売った。〉(本書より)
 その子供たちが、私たちであった。昭和二十年代後半の子供時代、村に月に一回か二回巡回してくる映画。もちろん村には映画館などというものはなく、野外での土の上にムシロを敷いて、その上に座り、星空をながめながら、風で白い衣のスクリーンがパタパタゆれる映画であった。そんなスクリーンに映る画面は裏側へまわると観ることのできる映画であった。子供は一番前の席へ座われといわれ、スクリーンにおでこをぶつけるような近キョリで観た。そのような映画会のようなものであったから、各村々を順ぐりにまわる映画であった。だから、吉田義夫の悪役は都会よりも田舎のほうに人気があったのではないかと思われる。それにしても、あのにくたらしい演技はなんだ。
 〈この脇役俳優は、私が子どもの頃は、東映チャンバラ映画の「怪人」的悪役専門だった。異相異風の、マンガから抜けだしてきたような誇張した悪人を演じた。「男はつらいよ」シリーズの冒頭、寅さんの見る夢に必ず登場するが、あのキャラクターがちょうど昔のチャンバラ映画のそれである。監督の山田洋次は私たち世代を意識して再現しているわけだ。なつかしい俳優である。〉(本書、解説、あなたが主役、出久根達郎)
 あの時代の映画にピッタリの悪役であったわけである。では、今の時代にあの悪役がさまになるだろうか。もし、あらわれたとしたら吉田義夫のパロディになってしまうだろう。私たち子供時代に見せられた、あのマンガチックのにくたらしさは日本人そのもののオヤジであった。







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