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評者◆秋竜山
「漁師」をどうとらえるか、の巻
No.3349 ・ 2018年04月28日




■宮崎法子『花鳥・山水画を読み解く――中国絵画の意味』(ちくま学芸文庫、本体一二〇〇円)では、
 〈そもそも中国の文学あるいは哲学の伝統のなかで、漁師は特別の意味をもっていた。〉(本書より)
 若い頃、漁師をやっていた。と、出版社のインタビューで答えた。活字になっていたそれを見て驚いた。「理容師」と、なっていた。「りようし」と、耳でとらえると、そうなったとして、なんともいえなくなってしまう。私としては、どっちでもいいことであった。
 〈山水画に漁師が好んで描かれたのは、単に川や湖には漁師がつきものだからという理由だけではないだろう。彼らは、山水世界に最もふさわしい住人として選ばれた存在であった。『楚辞』や『荘子』という古典のなかにしっかりした「身元」をもった漁師たちは、本人たちの意思とは関係なく、士人たち知識人たちによって穏逸な存在とみなされ、時代を超えて山水画のなかに描き継がれたのである。〉(本書より)
 今、漁師というものをどのようにとらえるだろうか。魚をとる職業ということになるだろう。その魚をとる職業として、どのように魚をとるのかということだ。まず、海で、ということになるだろう。魚が海にいるからである。しかし、その魚をとることも、昔と今とでは違っている。違っているというよりも、違ってしまったというべきだろう。私の漁師体験は海での定置網漁業であり、定置網といっても、今と昔を一緒にして語ることはできないはずだ。
 〈「早春図」の全体の構成のなかで、漁師は画面の最も下に配されている。旅する僧は漁師たちよりはやや上の隅におり、そして士人の一行はさらに上方に描かれている。そびえる巨大な主峰は皇帝の象徴であり、風雪に耐えてすっくと立つ松は官僚たちの象徴であると、(略)〉(本書より)
 山水画の中の漁師を見たかったら、画面の下のはじっこをさがすとよい。
 〈右側の岸には、舟が着き、棹を操る若い漁師と網を片づけるその父親と思われる漁師父子が、漁から帰ってきたところが描かれている。さらに、中央の巨大な岩をはさんで画面左側の岸にも、舟が着き、若い女性が天秤棒を担いで降り立つところが描かれている。棒を振り回してはしゃぐ男の子と、小さい赤ん坊を抱いた姑が出迎えに出ている。そのまわりを黒い犬がうれしそうに飛び回っている。嫁が市場へ舟で魚を売りに行って買い物して帰ってきたのを、孫をみていた姑と子供(孫)と犬が出迎えている。これから、岩陰に見える陋屋で、一家そろってささやかだが幸せな夕餉のひとときが始まると思われる。(略)〉(本書より)
 昔、私がいう漁師は定置網の漁師であり、村全体が漁師の生活共同体のようなものであった。魚がとれたりとれなかったりすることによって、村全体の家庭が同じ思いをしたものであった。共同生活者とはどのようなものかというと、定置網の仕事場以外で、たとえば一人で浜辺で釣り糸をたれていたりすると、遊んでいるといって叱られたものであった。「早春図」などという世界は、まったくなかったのである。







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