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評者◆秋竜山
「絵にも描けない美しさ」とは、の巻
No.3345 ・ 2018年03月31日




■浦島太郎が有名になったのは、助けた亀につれられて龍宮城へ行ったからであった。私は海辺の小さな漁村で生まれ育った。ちょっと大波にでもなれば海水をかぶってしまうほどの所に村の龍宮神社があった。と、いうことは村人が龍宮城を祭っているということである。海の中に龍宮城などというものあるわけがないが、もしも、という思いもあった。もちろん子供の頃である。浦島太郎が龍宮城へ行けたのは、亀の背にのって海の中へもぐっていったからである。その場所がどこにあるのか、浦島太郎以外は知っていないだろう。浦島太郎をのせた亀はどんどん海底にもぐっていく。村の定置網によく大きな亀がかかった。漁師は、その亀を龍宮城のつかいだという思いから必ず神に御神酒をのませた。そして、海へはなしてやるわけだが、若い漁師たちは浦島伝説にあるように、亀をはなす時、その亀の背にのって海の中へはいっていった(遊び心で)。ところが、はいると同時に亀の背からはなれて、亀と一緒に海底へすすむことはできなかった。浦島太郎にだけできるワザである。ホントかウソかしらないが、御神酒を強引にのませられた亀は、海へはいると、胃にはいった酒で胃がやけて、すぐ死んでしまうということであった。だとしたら、こんな悲劇はないのである。
 関裕二『わらべ歌に隠された古代史の闇』(PHP文庫、本体七四〇円)
 〈「日本書記」雄略二十二年七月に、丹波国の余社郡の管川の人、瑞江浦島子、舟に乗りて釣す。遂に大亀を得たり、便に女に化為る。是に、浦島子、感りて婦にす。相逐ひて海に入る。蓬莱山に到りて、仙衆を歴り観る。〉〈女人によって浦島が目を閉じさせられ、あっという間に海の中の広く大きな島に着いたのだった。〉(本書より)
 面白いのはそこだ。目をつむって、次に目をひらく、ひらくと同時に、あっという間のできごとである。目的地の龍宮城へついたというのだ。亀にのって、どんどん海底へもぐっていったのではなく、目をつむって、ひらく一瞬に目的地についたということだ。子供の頃見た絵本では亀は浦島太郎をのせて海底へと、ななめにもぐり続けていく。そして、龍宮城は、〈絵にも描けないうつくしさ〉であった。絵にも描けない美しさとはいったいどのような美しさであったか。とにかく、美しすぎて、絵にも描けないというのである。絵にも描けないということは、絵にならないということであるから、想像の世界である。もちろんこれは童謡の歌詞である。たとえば美人の女性があまりの美しさに絵にも描けない美女であったとなると、考えようによっては、非常に無責任でもある。「お見合いしたんだってね。どんな女性だったの?」と、聞かれて、「ハイ!! 絵にも描けないような美しい女性でした」と、答えたとしたら、龍宮城のような女性であったということか。遠い昔のこと、私はテレビの「遠くへ行きたい」という番組で、丹後の浦島太郎伝説をテレビ取材したことがあった。その時は龍宮城へは行けなかったが、龍宮城は太平洋側にあるのか、日本海側にあるのか。まず、それをハッキリさせるべきではなかろうか。どーでもいいことか。







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