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評者◆秋竜山
似てる似顔絵、似てない似顔絵、の巻
No.3343 ・ 2018年03月17日




■日本博学倶楽部『「名画の巨匠」謎解きガイド――西洋絵画が物語る画家たちの「素顔」とは』(PHP文庫、本体七〇〇円)を再読しながら考えた。ロートレックのこと。
 〈売れっ子デザイナーが描いた売れっ子歌手のポスターは、なぜ発売中止になったのか?〉(本書より)
 あまりにも本人に似ていた画であったから。別のいいかたをすれば、あまりにも本人に似ていなかったから。どっちも正しい。とはいえ、今の時代のポスターとモデルとくらべることはできない。ポスターは残っていても、本人はこの世にはいないのである。画を見ると、ロートレックが描いたものであることはすぐわかる。ロートレックが描いたものであるから、似ているに決まっているだろうと、誰もが思うはずである。
 〈対象をデフォルメして描いたことで、話題になった出来事がある。シャンソン歌手だったイヴェット・ギルベールのポスター発売中止騒動である。〉(本書より)
 「なんなのよ、この画は、これが私なの!! 冗談じゃないわよ。この画のどこが私に似ているというのよ!!」と、わめいたのかどうかは知らないが、いずれにせよ、ロートレックの描いたポスターを拒否したのであった。拒否したのにポスター以上に有名になってしまったのではなんにもならないだろう。
 〈その下絵を見れば、なぜ彼女がポスターにできないと言い張ったかがわかる。とがった鼻、とてもチャーミングな豊かな表情といった彼女の特徴が、まるで風刺画のような滑稽に強調されていた。〉(本書より)
 「まるで漫画じゃないのさ」と、叫んだとしても、うなずけるものがある。あまりにも真にせまっていたからである。似顔絵というものは、そもそも曲物の絵である。本人に似ていることがうれしい場合もあり、不ゆかいな場合もある、というのが似顔絵そのものである。特に女性に多いだろう。一番よろこぶのは、本人になったく似ていなくても、とにかく美人に描かれてありさえすれば、「あたしに、そっくりだわ」と、いうことになってしまうのである。女性をモデルにして似顔絵を描く場合は、まず、似せようとして描こうとしたら大失敗してしまうだろう。絶対的に美人に描くことだ。美人に描くことによって別人のように描くことを念頭におくこと。「まあ、私にそっくりだわ」と、モデルによろこばれる瞬間が、描き手ミョーリにつきるのである。
 〈ギルベールは、次のようなコメントを残している。「あなたは何と恐ろしい絵を描く人なの」「お願いですから、あんなに私を醜く描かないでください。」〉(本書より)
 ギルベールの言っていることは正しいと思う。私も、今まで何度となく同じ経験をしている。「何よこの絵は」と、口には出さずとも、顔の表情でよくわかる。だからといって、「スミマセン」と、あやまるわけにもいかないだろう。その場で、やぶり捨てられることはなかったが、後でやぶられたに決まっているだろう。それとは逆に、大変よろこばれたこともあった。「ありがとう、あたしのお宝です」なんて、いわれたこともあった。似顔絵とは、モデルによろこばれるためにあるのである。これさえ守れば一流の似顔絵画家であるだろう。と、私は思う。







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