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評者◆内堀弘
西郷隆盛の似顔絵入り手配書――二〇一七年、後世の古本屋をうならせるようなものが私たちの周りにあったのだろうか
No.3342 ・ 2018年03月10日




■某月某日。西神田の日本書房の新春古書目録に「高杉晋作、平野次郎、西郷吉之助手配書」というのが載っていた。安政四年の木版刷二枚組。一枚は人相書き。画風はガロ系で味わい深いが、これで顔認証はできたのかと思わせるもの。もう一枚には三人の名前を記し、これらは悪人なので見かけたらそっと報せるようにとある。立ち寄りそうな宿や商家に配ったのだろう。映画『龍馬暗殺』でも、龍馬が自分の手配書を見て(そのヘタウマな画風に)「軽率そうな顔をしちょるのう」と笑うシーンがある。こうしたもののオリジナルが残っている。古書の世界は無尽蔵だ。今ならさしずめテロ等準備罪で指名手配されたお尋ね者だろうが、そんな人たちも時が経てば大河ドラマの主人公になるのだから、手配書はコレクションアイテムということか。
 先月の入札会に幕末の書状があった。内容はライフル銃のセールスで、銃の見本が彩色で描かれている。こんなものをまとめて調達できます、というのだ。それを見ていたら、江戸期に詳しい同業の先輩が「日付が一年早ければ値段は全然違うよ」と教えてくれた。この書簡の日付は慶應四年だった。戊辰戦争があり秋には元号が明治となった年だ。この年ではなく(古書価としてだが)、前年、つまり慶應三年ならよかったと言うのだ。大政奉還が行われる一方で薩長同盟は武力倒幕を唱え、内ゲバや新撰組のテロが日常化し、十一月には龍馬も暗殺される。幕末の混迷と激動を象徴した年だ。危ない書簡にはこの緊張感が必須なのだろう。「慶應三年に限る」とは、どのジャンルにも経験から生みだされた教訓はあるものだ。
 ところで慶應三年は西暦の一八六七年。この五十年後の一九一七年にロシア革命が起きた。更にその五十年後の一九六七年には羽田事件が起きる。首相の南ベトナム訪問に反対するデモ隊が羽田附近で機動隊と衝突して学生が死亡した。この十月八日を契機に社会的な叛乱が一挙に広がる。こう言うのに含羞もあるが、ロシアアバンギャルドの資料は大変高い(もちろん古書価)。六七年が切り拓いた前衛美術やアンダーグランドな演劇、音楽の資料も今や大変高い。そしてまた五十年が過ぎた。二〇一七年、後世の古本屋をうならせるようなものが私たちの周りにあったのだろうか。慶應三年から続く五十年に一度の当たり年に居合わせたのに、それが何かがわらない。







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