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評者◆秋竜山
泣けるねぇ、の巻
No.3339 ・ 2018年02月17日




■ヒトの二大感情に、〈泣く〉と〈笑い〉がある。「よく泣くヒトだ」とか「よく笑うヒトだ」とか。泣き上戸とか、笑い上戸とかいう。居酒屋などで酒をのみながら、相手の話に「泣けるねぇ」なんて、いうと、あのヒトはいいヒトだということになる。しみじみとした話には「泣けるねぇ」のヒトコトさえ知っていれば充分だろう。「泣けるねぇ」のヒトコトに、「ありがとう」と、お礼をいわれたりする。「俺のいうことを、わかってくれるのは、きみだけだ。まあ、一ぱいやってくれ」なんて酒をつがれたりする。「その話、泣けるねぇ。聞けば聞くほど、泣けてくる」なんて、いおうものなら。「そーか、泣いてくれるか。きみは、わかっている。で、ね!!」と、続きがはじまる。「こんな泣ける話って、めったにあるものではありませんよ」「だろう、だろう。で、ね!!」と、話は続けられるのである。「もう、この話は切りかえてもいいだろう」と、内心は思っていたとしても、「なんとも泣けてくる」なんていうことによって終わりそうもなくなってしまうのである。お互いに泣き上戸ともなれば、二人とも、しみじみと泣きあったりしているものである。泣くということで非常にいい空気がうまれる。泣くということを、たのしんでいる。笑い上戸となれば、話し相手はよく笑う。笑われれば笑われる程に気をよくして、「で、ね!!」と、続けられる。そして、「このヒトはいいヒトだ」と、いうことになり、「で、ね!!」が続く。
 彩図社文芸部編『文豪たちが書いた 泣ける名作短編集』(彩図社、本体五九〇円)では、〈目頭がじんと熱くなる〉(オビ)と、させてくれる〈10人の文豪が描く哀切に満ちたストーリーばかりを集めました〉(オビ)という「泣ける」本ということだ。「ヨシ、寝る前に泣いてみる」と、本を手に取るわけである。ヒトはなぜ泣くことが娯楽になるのか。それは、泣けるということは他人の不幸や悲劇であるからである。
 〈行きづまってぼろぼろになっていく家族、死にゆく妻と向う夫、誰とも分かり合えない孤独を抱えた男、自らの弟を殺した兄…ひとつとして同じテーマではない。(略)文豪たちが綴る、胸に迫るストーリーをじっくり味わってもらえたら、〉(本書――序より)
 太宰治、新美南吉、有島武郎、横光利一、芥川龍之介、織田作之助、久生十蘭、宮沢賢治、森鴎外、菊池寛の十人による泣ける短編集である。中学生の時、あの時代は学芸会というのがあり、隣のクラスでは、「高瀬舟」をやった。その時、この作品をはじめて知ったのであったが、あまり上手とはいえない同級生の演技であったが、それがよかったせいか、変てこな情感がうまれ、私は感動した。そして、担任の教師が、「高瀬舟」を選んで学芸会の舞台にのせたということにも感動した。
 〈次第にふけてゆくおぼろ夜に、沈黙の人二人を載せた高瀬舟は、黒い水の面をすべって行った。〉(本書より)
 小説高瀬舟の終わりの部分であるが、胸が痛くなるように、泣ける場面である。







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