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評者◆秋竜山
名画慣れ、の巻
No.3335 ・ 2018年01月20日




■どのような芸術作品であっても、最初、世にあらわれた時は、「大丈夫かなァ!!」と、思わせるのである。つまり、芸術として生き残れるかどうかということだ。はじめは、芸術作品であっても、その内に、あきられてしまったら芸術どころではなくなってしまうのである。そこのところが芸術作品を持続させられるかあぶなっかしいところである。古今の芸術作品は、そんなあぶなっかしい時季をへて今日に到るといっていいだろう。たとえば、近くやってくるという「ムンクの叫び」である。あの作品を画集などで見た時、まさに「大丈夫かなァ!!」と、心配になってきたのであった。あの気持ちわるい絵を見た時、誰もが、「なんだこの絵は」と、その狂気じみた絵に目をそむけたくなったであろう。ところが、あにはからんや、誰もがあの絵を眺めている内にいつしか目をそむけるどころか、くいいるように見るようになってしまったのである。つまりは、大丈夫であったということである。みんな慣らされてしまったというべきだろう。慣らされたら、しめた!! ものだ。これは立派な芸術作品として価値あるものであると、タイコ判を押したのである。途中、あきられることなく評価されたということだ。専門家が、「これはいい!!」となれば、99パーセントの素人たちは、したがうだろう。ムンクの「叫び」は客間に飾られている。はじめは、奥さんも眉をひそめていたが、今では慣れてしまって、なんともなくなってしまったようである。
 日本博学倶楽部『「名画の巨匠」謎解きガイド――西洋絵画が物語る画家たちの「素顔」とは』(PHP文庫、本体七〇〇円)で、
 〈ノルウェーを代表する画家といえば、エドヴァルド・ムンクをおいてほかにない。代表作「叫び」はあまりにも印象的だ。絵からも感じられるように、抑圧された心のなかにある恐怖や不安を表現している。その強烈な感情表現は、のちの画家たちにも大きな影響を与えた。〉(本書より)
 名画になる条件として、一人でも多くの人の目にふれるということだ。政治家の選挙と一緒で、一人でも多くの人とあくしゅするということである。あくしゅした人は必ず一票となる。芸術作品となる名画は、すべて慣れてしまった作品であるということだ。名画慣れとでもいうべきだろう。いつしか忘れさられてしまう芸術作品などあったりするが、これが一番怖い。慣れが持続できないということだ。
 よく、いいものはいい!! というが、あきられない内はいいものであるということである。ムンクの「叫び」は、最初にやったもの勝ちであって、あの絵と同じようなことをやっても二番手は相手にされないだろう。いくら私の描いた叫びの方が気持ちわるい!! と、いっても、叫ぶという状況でモノマネ扱いにされてしまうだろう。ピカソの「泣く女」だって、そーである。ロダンの「考える人」だって、あの作品以上の考える人を創作したとしても勝つことはできない。そして、大丈夫だと自信たっぷりなほど、あぶなっかしいものだ。







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