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評者◆小嵐九八郎
小説は滅んでもこの書は残るだろう――瀬戸内寂聴著『いのち』(本体一四〇〇円、講談社)
No.3335 ・ 2018年01月20日




■アルバイト先の私大でテキストにこの十三年間必ず使わせてもらっている一冊に、瀬戸内寂聴さんの晴美さん時代の『花芯』がある。六〇年安保より先立つ一九五七年の作だけれど、冒頭の「きみという女は、からだじゅうのホックが外れている感じだ」に毎年毎年震えてしまう。俺は当時は中学一年で読んではいなかったが、男どもは仰天したであろう革命的表現の上に分かり易い文である。ま、これで、社会の先を読めなかったか、読み過ぎて恐怖を先取りしたか、評論家の平野謙に叩かれて瀬戸内さんは三年ほど業界から干されている。六〇年後の今、受講している女子学生には「新しい中身」、「女の自らの伸び伸びさを求める姿は現代と同じく苦しいし、感激した」、「女の自苦的な反省もある」とかなり好評だ。ただし、『美は乱調にあり』をテキストに使うと、女性解放の第一歩やアナーキズムの歴史に無知なのでぴんとこないらしく「昔の女って自由」などと寝言を呟く学生もいる。
 それでほとんどの新聞が取り上げた『いのち』(講談社、本体1400円)を買い、読んだ。帯には「95歳、最後の長編小説」とあるので小説なのだろうが、瀬戸内さん自身の老いと病との格闘の上での突き抜けた生死への考えと構え、実在して筆を競い、慰め励ましあった河野多惠子と大庭みな子の性愛を含んでの書であり、小説以上の事実の匂いと重さをくれる。もう再びはやってこない、日本の小説史上最も活き活きした時代の、丹羽文雄、円地文子、井上靖、井上光晴などが生生しく登場して日本文学史としても貴重な証言となっている。文章表現を野放図、明解、若若しく「高価なビフテキほどの胆のうを見せられた時も、/『焼くと美味しそうですね』/と言い」と自らの切り取られたガンのそれを見てのことを記していて、凄い。河野多惠子、大庭みな子の作家としての業の自意識の深さは、駄目作家の俺も救われるぐらいだ。
 小説は滅んでもこの書は残るだろう。ありがとうございます、瀬戸内寂聴さん。もっともっと生きて、また感動させて下さい――なお、この大作家をうんと知りたい人は去年に出た『続・寂聴伝』(齋藤愼爾著、白水社)を是非に。







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