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評者◆伊達政保
細かな過程一つ一つが現実に思い当たってしまう――故・船戸与一畢生の大作『満州国演義』を舞台化した、『燃えあがる荒野』
No.3329 ・ 2017年12月02日




■故・船戸与一畢生の大作『満州国演義』(全9巻、新潮社)が舞台化されたことを知り急遽観に行った。4年前、同じ船戸原作の『蝦夷地別件』を上演した、ピープルシアターの公演『燃えあがる荒野』(脚本・演出・美術/森井睦)である。原作は、昭和3年張作霖爆殺事件から、昭和6年満州事変、昭和7年満州国建国、昭和12年日中戦争、昭和16年太平洋戦争突入、昭和20年日本無条件降伏、昭和21年天皇人間宣言、満州通化事件に至るまでの、激動する時代の奔流の中、無残に、歴史のはざまに棄てられていく若者たちを、架空の敷島四兄弟、平和主義を貫こうとする外務官僚の太郎、自由人であろうとする馬族の次郎、純粋な帝国軍人であろうとする三郎、アナーキズムにも被れたインテリ学生の四郎、彼らの視点を通し描いている。また四兄弟を狂言回しのごとく操る特務機関員の存在も忘れてはならない。彼等は自己の信条に関わらず、大日本帝国の為という名目で動いていくことになる。オイラ、この大河小説をどう舞台化するのかと思ったが、リーフレットによれば3部作として3年問にわたり毎年1本ずつ上演していくという。
 さてその第1弾、舞台は一面に草が生い茂る荒野、小説冒頭のエピソード慶応4年8月戊辰戦争会津城下から始まる。そして時代も設定も飛び、満州の荒野に次郎たち馬族が登場、村をめぐる馬族の抗争。場面は東京、特高警察の罠にはまる四郎。再び満州の次郎。奉天領事館の太郎と独立守備隊の三郎。その裏で、関東軍による張作霖爆殺計画が進行していく。場面は目まぐるしく変わるが、舞台上は荒野のままの設定。その所々で各々の場面が演じられていく演出方法は、カット割を多用する映画のようだ。また音楽の使い方も映画音楽を思わせる。このピープルシアタ一、「舞台で映画を創る」をモチーフに公演活動を続けてきているというが、なるほど。
 脚本は小説の第1巻『風の払暁』と第2巻『事変の夜』をべースに展開する。張作霖爆殺事件から満州事変までのス卜ーリーだが、構成上、馬族の次郎を中心としている。ただ、小説未読や歴史的背景を知らない観客にとって、判りづらい内容かも知れない。国内での、満州蒙古を日本の生命線として、国家改造を先行させるか、満蒙占有を挺に国家改造を計っていくか、この攻めぎあいが、三月事件、十月事件のクーデター未遂そして満州事変を引き起こすことになるのだ。
 今の日本の状況と比較してみると、その細かな過程一つ一つが現実に思い当たってしまう。来年秋、第2弾『燃えひろがる荒野』の公演が楽しみだ。しかし、そのころ日本の現状はどうなっているのだろうか。







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