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評者◆添田馨
象徴と民心⑬――象徴としての〝アベシンゾー〟⑤
No.3323 ・ 2017年10月21日




■「戦争犠牲者のみなさん。私たちを見守り、私たちを励まし、そして共に闘うため、どうか私たちに力をお貸しください。」――2017年8月15日、社民党の副党首福島みずほは千鳥ヶ淵墓苑での終戦記念式典の自身の挨拶をこのように締めくくった。私はこの言葉を聞いて、驚愕のあまり全身から血の気が引いた。私が政治家の口から、ついにレトリックではない究極の言葉を聞いた、それが最初の瞬間だったからである。
 私たちの国をつくっているのは、今に生きている者ばかりなのではない。
 例えば現在の私の存在を支えている者の多くは、もうすでに亡くなった過去の人たちだ。自分の親族や先祖、親しかった友人や先輩、文学や思想分野での敬愛する先達など、彼等がもうこの世にはいない人たちにもかかわらず、ごく自然にそう思える。
 まったく同様のことは幻想の共同体たる国についても言える。太平洋戦争による膨大な数の戦争犠牲者たちの存在は、文字通り私たちの戦後世界の心礎であった。歴史的な視座をそこに設けるなら、おなじくこの国の戦後社会の原点をなす日本国憲法は、彼らのあまりに重いその犠牲の意味と引き換えに、私たちの手に届けられたことになる。その条文の一字一句には、そうした見えない歴史的聖痕(スティグマ)が間違いなく残されている。
 日本国憲法の全面的改造を目論む“アベシンゾー”は、現行憲法のもつこうした“聖性”を象徴的に殺そうとする者である。“アベシンゾー”との闘いは、だから現実の政治政策レベルの闘いである以上に、私たちの心の奥深い部分を支える象徴間の闘いなのだ。それは、私たちの国の心礎へ陰に陽に敵対するあらゆる思想理念との闘いでもある。
 「主権者であるわたしたちは、戦争犠牲者の全てのみなさんと共に力をあわせて、9条改悪を止めたいのです。」――福島みずほのこの言葉は、象徴としての“アベシンゾー”と闘うイデアルな主体が、どこで誕生しうるのかを何よりも雄弁に告げている。







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