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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3321 ・ 2017年10月07日




■やんばるの森にしかいない生きものたち
▼ぼくたち、ここにいるよ――高江の森の小さないのち ▼アキノ隊員 写真・文
 沖縄本島北部の東村高江の米軍ヘリパッド建設で破壊にさらされる、やんばるの森に関心をもつ人なら、アキノ隊員の名前をきっと耳にしたことがあるでしょう。アキノ隊員こと宮城秋乃さんは、沖縄県内の森林性のチョウの生態の研究者です。二〇一一年から、準絶滅危惧種のチョウであるリュウキュウウラボシシジミの調査のために、やんばるの森にかよいつづけるアキノ隊員は、高江と国頭村安波の建設地周辺の生物分布と、米軍機の飛行が野生動物に与える影響を調査し、ブログで状況を発信してきました。この本は、やんばるの森を探検しながら、森の生きものたちを豊富な写真と文章で紹介した一冊です。
 高江と安波の森の中が、どれだけゆたかな生きものたちの宝庫であるかを、この本をひらく誰もが感じることでしょう。特に、米軍の海兵隊が密林で戦争をするための北部訓練場内を流れる宇嘉川は、人の手があまり入っていない貴重な水域で、リュウキュウウラボシシジミの生態を目にすることができるのです。ほかにも、菱形のひとみをしたナミエガエルや、準絶滅危惧種に指定されている毒蛇のハイなどが出てきます。ハイは沖縄の言葉で「日照り」を意味するのだそうです。蛇といえばヒメハブも。森の中のその雄姿はもう迫力満点。ノグチゲラやヤンバルクイナなどのめずらしい姿も、この本におさめられています。
 「ぼくたちの森を壊さないで」。アキノ隊員も書いているように、この地球上でやんばるの森にしかいない生きものたちの世界がここにあります。ヘリパッドはそれを断ち切り、未来への生命のつながりを破壊してしまうのです。いま、一人でも多くの人に読んでほしい一冊です。(8・5刊、菊判変型九六頁・本体一九〇〇円・影書房)


■信州安曇野穂高が育んだ詩
▼わき水ぷっくん ▼田沢節子 詩/永田萌 絵
 この本は信州の安曇野、穂高に生まれ育った詩人の田沢節子さんが、ここ十数年のあいだに書いた三七篇の詩をまとめた一冊です。北アルプスに抱かれた安曇野の風景のなかで、田沢さんは子どものころ、野原や田んぼ、わき水が流れるわさび畑などを走りまわって遊びました。「私の詩作の師は、山や豊かな自然そのもの」と田沢さんは書いています。
 たとえば、詩集の書名にもなっている、「わき水ぷっくん」という詩の一節。
 つちの なかから
 ぷっくん ぷくん
 わいている
 きよらかな 水
 ぷっくん ぽこぽこ
 めをだすように
 安曇野を訪れたことのある人なら、ワサビ田をうるおす清水の流れる光景が目に焼きついていることでしょう。田沢さんの詩は、土のなかから水が湧き出るようすをとらえています。生命の源をかんじる詩句です。
 わき水は
 いきてる よろこび
 しっている
 きぼうを だいて
 ぷっくん ぷくん
 この詩集からは、穂高の山なみまでが浮かんできます。たとえば「穂高の子守歌」という詩からは、穂高の峰に夕日が沈み、夜露にぬれ、星がこぼれ、また茜色にそまり、明日を奏でる風景が見えてきます。ぜひ手にとって、霊峰から湧き出たような詩の数々を口ずさんでみてください。(7・7刊、A5判九二頁・本体一六〇〇円・銀の鈴社)


■バケツからこぼれた水がしゃべった
▼ばけバケツ ▼軽部武宏
 怪談絵本『ちょうつがい きいきい』や『大接近! 妖怪図鑑』『のっぺらぼう』などで知られる画家で絵本作家の軽部武宏さんが、新作を出しました。その名も『ばけバケツ』。おばけの、バケツ? いったいどんな妖怪がでてくるのか、まずはページをひらいてみましょう。
 日もとっぷりと暮れた野っぱらをあるく、バケツ。ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃっぷん、と溜まった水の音をたてながらやってきます。そのうち、どたん! ところんでしまって、水がバシャーンとこぼれました。
 その水に、ヤマネコが近づいてきます。手をつけると、「きゃっ」と、水たまりから声がする。そのうち、フクロウもやってきます。「ホーホー」。フクロウが鳴くと、水たまりからも「ホーホー」と鳴き声がかえってくるではありませんか。
 むむ、まるで水たまりは生きているようです。
 さあ、つぎつぎといろんなものがやってきます。小石がとびこみ、男の子が魚釣りをしにきて釣り糸をたれ、しまいにはゾウがやってきて水遊び。水たまりもだまってはいません。甘いにおいをだす、ハスのような花を咲かせることもできるのです。「どんなもんだい」と、水たまりは得意がります。
 でも、怖いものが水をのみにやってきます。そう、オオカミです。空からは雨や、魚や、オタマジャクシまで降ってきました。
 あー、もうおしまい! 水たまりは大声でさけびます。そうして、もとのバケツに戻ってしまったのです。
 いったい、これは何なのでしょう。読んでのお楽しみです。(7・6刊、31cm×24cm三二頁・本体一五〇〇円・小峰書店)


■てがみをはこんだびんの物語
▼こびん ▼松田奈那子
 この本の題名のこびんは、むかしむかし「投壜通信」という、海をつたっててがみのやりとりをするために、てがみをいれるびんのことをいいます。この絵本は、投壜通信のこびんが主人公です。
 女の子から、たいせつなてがみをあずかったこびんは、海をつたって、どこかの浜辺にうちあげられます。てがみをうけとったのは、男の子の兄弟でした。兄弟はよろこんで返事を書いて、次の日また海へとなげかえします。そして暗い夜の海をただよって、にぎやかな浜辺に流れつきました。
 こうして春夏秋冬、いろんな人からてがみをあずかったこびんは、海をわたって、たいせつなてがみをとどけていきます。
 いまはラインやメールなどで、ほんとうにかんたんに誰かとやりとりできる時代です。でも、とどくかどうかわからない、誰にとどくのかもわからない、そんなメッセージを、投壜通信はとどけていたのです。かけがえない通信手段がはこぶしあわせがあります。この絵本は、そんなしあわせをはこんだ、こびんの物語なのです。(16年11月刊、25cm×23cm三二頁・本体一四〇〇円・風濤社)


■謎の事件発生、どろぼうを追え!
▼こらっ、どろぼう! ▼ヘザー・テカヴェク 作/ピエール・プラット 絵/なかだゆき 訳
 農場の犬のマックスは、サクランボやニンジンやイチゴやマメや、農場の作物をかたっぱしから盗んでいくどろぼうをつかまえるように、ご主人におおせつかります。合点承知とマックスはかけだします。でも、どろぼうはいったいどんな姿をしているんだろう?
 にんじんの葉っぱを食べるムシがいます。「こらっ、どろぼう!」。マックスはムシをおいかけます。
 ニンジンをむさぼるように食べるウサギ、イチゴをのみこむブタ、マメをたべるヤギ。みんなマックスのはなしをきいて、「それはいけないね」といって、ここはじぶんが見張っておいてあげるからと、たべつづけるのでした。でもマックスは、ウサギのことも、ブタやヤギのことも、うたがいもしません。ムシが怪しいとふんで、けんめいにおいかけていくのです。
 いったいどろぼうは誰? どこにいるんでしょう? 誰かマックスに本当のことを教えてあげて! と口に出さずにはいられない、農場を駆け回るたのしみにあふれた絵本です。(7・31刊、27cm×22・5cm三二頁・本体一四〇〇円・きじとら出版)

■街角には不思議な物語が溢れている
▼街角には物語が・・・・・ ▼高楼方子 作/出久根育 絵 旧市街の街角にはどこか不思議な物語が溢れている。十六歳のピッパ・フィンチは子守のアルバイトをしながら通りを見下ろして、歩いていく人びとを眺めている。そして灰色のコートを羽織って髪を無造作に束ねた年齢のわからない女性の姿に、ある物語を想像していく――。
 八つの物語は、この通りをめぐる人びとの不思議なお話を描いている。ある日突然いなくなってしまった会社の社長、会うたびに同じ会話を繰り返す妙齢のふたりの女性、ウソつきの子どもの心を盗む人形、店に置かれた古いゲームに興じる中年男性、緑のオウムを欲しがる少女が出会った一冊の本、正面からしか彼女の姿を見ることができないという男、すこしおかしな、妖しい、そしてとても不思議で美しいお話の数々。
 目を上げて、街ゆく人の姿から、その人たちの身に起きる人生を想像してみれば、そんな不思議な美しい物語が人の数だけ存在しているのかもしれない。そして、それらはどこかで微かにつながりあっている。想像力というもののわくわくするような楽しさ、生きていくことの不思議さを読者に伝える、いとおしくなるような小さな物語集。(10月刊、B6判変形一六八頁・本体一四〇〇円・偕成社)







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