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評者◆『昭和こども図書館』を出版した 初見健一氏
ネットは閉鎖的に情報が整理されている 知り得ないものに出会えるのが読書の強み――当時遊んだおもちゃの面白さを語るように語り七〇年代の空気を真空パックした児童書ガイド
昭和こども図書館――今でも読める思い出の児童書ガイド
初見健一
No.3320 ・ 2017年09月23日




■昭和のレトロカルチャーを対象に執筆活動をしている初見健一氏が、『昭和こども図書館――今でも読める思い出の児童書ガイド』(大空出版)を上梓した。懐かしさをキーワードに、自身が小学生時代を過ごした一九七〇年代の作品約一〇〇冊を収録。思い入れたっぷりの解説文には当時の空気が丸ごと真空パックされていて、タイムトラベルをしているような気分が味わえる一冊だ。
 「批評でも研究でもなく、当時遊んだおもちゃの面白さを語るように本のことを語れたら、と思って書き始めました。その本を読んでいた子どものころの自分を、大人の僕が観察しながら書いている感じですね」
 サブタイトルは「オカルトと戦後民主主義」にする予定もあったとか。
 「七〇年代の児童書の世界には、その二つしかなかった気がするんです。扱っているオカルト本の点数が多すぎるとも言われちゃうんですが、七〇年代のオカルトは子ども文化のメーンストリームだった。どうしても大量に入ってきちゃうんですよね」
 なかでもオカルト系作品の代表者である中岡俊哉氏について、本書にはこう書いている。「僕ら世代は筆舌に尽くしがたいほどの影響を受けており、僕などは「この人さえいなければもう少しマシな人間になっていたのではないか?」とさえ思う」と。
 「中岡先生には多いに悪影響を受けました(笑)。僕ら世代はみんなそうですよ。学級文庫にも大量に蔵書されていましたし。でも、教育関係者や児童文学評論家が手がける通常の児童書ブックガイドでは、オカルト系の本は黙殺される。僕は『くまのプーさん』と『心霊写真集』がゴッチャになっているような、そういう玉石混交のブックガイドをつくりたかった。『読ませたい本』じゃなくて、『読んだ本』のカタログですね」
 執筆の過程で気づいたことが二つあった。一つは「児童書棚のラノベ化」、もう一つは空気の保守化である。
 「たとえば松谷みよ子の高学年向け作品(『死の国からのバトン』『ふたりのイーダ』など)をあらためて読むと、そのとがったリベラリズムに驚かされる。それだけ今の空気が保守的になったということでしょう。当時は児童書の世界も反権力がデフォルトだった。これが八〇年代以降、徐々に変容していくんですよね。当時のリベラルに対する反動の果てに、今のこの状況があるような気がします」
 本書には、「現在ではなにやら語るのが非常にめんどくさい作品」になってしまった『ちびくろ・さんぼ』『はだしのゲン』もきちんと言及されている。
 「コンプライアンスみたいなもので文学を判断するのは、非常に馬鹿馬鹿しい。今の価値観に照らせば、古典の多くは差別的表現に満ちています。また、『はだしのゲン』が残虐だと問題になりましたが、僕らは残虐だからこそ読んだんです。(ホラーマンガの)日野日出志作品と同種のものとして楽しんだ。でも、あれを読めば戦争のことを考えざるを得ない。平和について考えるきっかけになるんですよね。まぁ、あの作品を撤去したがっている人々の本音は、その部分こそが気に食わないんだと思いますが」
 思い起こせば、小学生から中学、高校と進学するにつれて、愛読書がその人のキャラクターを確定することはあった。例えば赤川次郎、村上春樹、大江健三郎、中上健次……。しかしその傾向もだんだん薄れてきているようだ。
 「背伸びして難解な本を読んで自慢する、みたいな傾向が当時はありましたよね。映画も音楽も、八〇年代は特にスノッブな感じが強かった。カッコつけのために文学やアートにお金と時間をかけるというのは、今思えば単なる若気のいたりという感じもするんですが、それが未知のものを知ったり、成長することのモチベーションにもなっていた。今の若い世代には、そういうスノビズムが希薄なのかもしれません」
 インターネットの登場により、「時間とお金」をつぎ込まずとも、情報入手は簡単になり、そして入手できる情報量も飛躍的に増えた。しかし『昭和こども図書館』の充実ぶりには遠く及ばないのではないか。
 「音楽でも映画でも本でも、予想外のものに交通事故のように出会って衝撃を受ける、というのは貴重な体験だと思います。アクシデンタルな出会いは、インターネット普及以降のほうが生じやすいはずなのに、むしろ少なくなっている気がする。ネットって、カオスのようで実は非常に閉鎖的に情報が整理されている。そうした意味では、本屋や図書室に出かけるほうが、幸福な「交通事故」に遭いやすいと思います」
 「読書することで、生きづらくなることもあるでしょう」と苦笑いしながら、読書とは何かという最後の問いに答えてくれた。
 「子どもに本を読ませたほうがいいか悪いか、それはよく分かりません。でも、書物は、世界は自分にとって都合よくできているわけではないということを理解するツールであることは確かです。知り得ないものに出会える。読書の強みはそこにこそあると思います」







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