書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆殿島三紀
彼らはイカロスだったのか――代島治彦監督『三里塚のイカロス』
No.3319 ・ 2017年09月16日




■『セザンヌと過ごした時間』『関ヶ原』等を観た。
 『セザンヌと過ごした時間』の監督・脚本はダニエル・トンプソン。幼少期から無二の親友だった画家ポール・セザンヌと作家エミール・ゾラのダブル主人公の映画だ。あのピカソに「我々の父」と愛され、マティスには「絵の神様」と崇拝されたポール・セザンヌ。ゾラは「居酒屋」「ナナ」などを著わし、自然主義文学の金字塔を築き上げ、ドレフュス事件でユダヤ人将校ドレフュスの側に立った作家。この有名な二人が親友だったということも興味深いのだが、二人がまるで重なり合わない放物線のように人生の坂を上がったり下がったりする様子がプロヴァンスの美しい風景と共に描かれている。画家を描いた作品に面白いものは少ないと思っていたが、本作はその数少ない佳作である。
 『関ヶ原』。監督・脚本は原田眞人。司馬遼太郎「関ヶ原」を原作にした一大合戦スペクタクル&大名たちの心理戦を描いた邦画の大作だ。主人公は石田三成。これまで描かれてきたクールで人徳のない三成像とは違い、岡田准一演ずるところの熱血三成である。関ヶ原の合戦は日本を二分し、天下分け目の合戦と称される歴史の節目となる戦い。とはいえ、この戦い、わずか6時間で終了。大河ドラマ『真田丸』でも「あれ、もう終わり?」だった。戦いそのものを真っ正面から描くのは本作が初めて。日本映画史上初の挑戦である。合戦シーンはやはり戦国ものの醍醐味だ。
 今回紹介するのは『三里塚のイカロス』。代島治彦監督作品。三里塚闘争は関ヶ原の戦いのように教科書にこそ載っていないが、国家権力を相手に農民たちが先祖代々の土地と生活を守るために立ち上がり、市民、学生も共に結集した闘いである。
 本作は『三里塚に生きる』(2014)の姉妹編。『三里塚に生きる』は大津幸四郎(2014年没)と代島治彦との共同監督作品で、あの時、国家と闘った農民の人生を中心に描かれていた。一方、本作は農民と共に闘った若者たちを描き出す。絶対に撮られなくてはならなかった作品だ。
 当時、日本では若者たちがベトナム反戦を旗印に、世界的な動きでもあった学生運動に突入していった。彼らが三里塚に向かったのは当然の流れだった。本作に登場するかつての若者は元革共同中核派政治局員で1981年から2006年まで三里塚現地責任者だった岸宏一。元ML派で農民支援に入った農家の息子と結婚した女性たち。元プロレタリア青年同盟で義勇兵として闘いに参加した元国鉄労働者。三里塚闘争をテレビで観て、京都から駆けつけた当時高校生だった元第四インター活動家など。農民運動家や元空港公団職員もいる。監督は現在の三里塚で彼らにあの日々のこと、その後の50年のことをじっくりと聞き出す。そして、彼らはあの日々を記録として残すかのように、語りたくても語れなかったことを語った。彼らにとってもこの映画は遺言のつもりだったのかもしれない。
 イカロス。蜜蝋で固めた翼によって飛ぶ力を得るが、太陽に接近し過ぎて翼が溶け、墜落死したギリシャ神話中の人物。イカロスの物語は人間の傲慢さやテクノロジーを批判する神話として有名であると共に、手の届かない理想を抱いたものの寓話として語られる。果たして彼らはイカロスだったのだろうか。
 実はここに登場する岸宏一は今年3月26日に山で遭難した。リュックは発見されたが、身体は見つかっていない。その知らせを受けたのは5月に入ってからのことだった。相前後して本作の試写状が来た。試写室で代島監督は「岸さんは初日の舞台挨拶に出ると言っていた」と話してくれた。だが、6月25日には偲ぶ会も行われ、無傷のリュックが会場にあった。彼がイカロスであったとは思いたくない。
(フリーライター)







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約