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評者◆伊達政保
天皇個人の資質や努力と現代の天皇制をごっちゃにしてはいけない――近代天皇制など長州が自分達に都合のいいようにでっち上げた制度にすぎない
No.3318 ・ 2017年09月09日




■6月20日付け朝日新聞の文化・文芸欄に「「天皇主義者」宣言のわけ」との見出しで、思想家・内田樹さんに聞くという記事が載った。最近リべラルと見なされる人達が、現・明仁天皇を支持擁護する発言をしてきている。確かに現・明仁天皇は真面目で誠実によくやっていると思うが、それはあくまで明仁個人の事であって天皇制とは全く別のことじゃないか。ところが内田はかつて「立憲デモクラシーと天皇制は原理的に両立しない」と考えていた時期もあったが、天皇制を含めた今の政治システムをよく練られた政治的発明と思うようになった、とこの記事の中では言っている。
 この記事は「月刊日本」5月号の内田のインタビュー記事「私が天皇主義者になったわけ」を受けたインタビューであり、構成上よく分からない点もあるが、ポイントは押さえてあるのだろう。その雑誌の中で、内田は、今の天皇制システムの存在は政権の暴走を抑止し、国民を統合する貴重な機能を果たしていると高く評価しているという。おいおい、それは明仁個人の奮闘努力の結果であって、システムがそうなっているわけではないのだよ。そして、天皇制が高い統合力を持つ一因はそれが持つスピリチュアル(霊的)な性格にある、とまで言う。彼はどうも古代、中世、近世、近代、現代の天皇制をごっちゃにしてしまっている。
 現・明仁天皇は天皇という制度が始まって以来、最初に「万世一系」ではなく日本国憲法に基づいて即位し、憲法の順守を誓った天皇であることを忘れてはならない。だからこそ象徴天皇としての「天皇の務め」について、自分なりに試行錯誤を繰り返した結果「お言葉」に至ったのだ。明仁個人の努力を天皇制やシステムの問題にすり替えることこそ、明仁天皇に対する祟敬の念のなさではないのか。おっと、出自は争えねえ、オイラ会津の出、我が会津藩は孝明天皇に忠誠を尽くしたがゆえに、薩長が擁立した明治天皇により賊軍の汚名を着せられた。近代天皇制など長州が自分達に都合のいいようにでっち上げた制度にすぎない。だからこそ天皇が自分達の思うようにならないと、国事行為だけやればよいなどの声が出てくるのだ。
 ある研究会で菅孝行氏が指摘していたが、内田の問題は、明仁天皇と天皇制という制度の混同、個人としての明仁にとっても天皇制は桂桔であることの看過、国家の権威が帯びるスピリチュアルなものヘの警戒心のなさ、日本国民は超歴史的に「天皇制があった方がうまく国が治まる」としか考えないとする根拠のない断定、にあるという。天皇個人の資質によっても、天皇の在り方が変わるということを忘れてはならない。







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