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評者◆ベイベー関根
ドンと来い、高齢化社会!(でいいのか?)
傘寿まり子 第三巻
おざわゆき
No.3317 ・ 2017年09月02日




■なるほど、こんな手があったかー。というのは、おざわゆきの『傘寿まり子』で、もう3巻まで出てるんだけどさ、これ、80歳の女性が主人公なんだよね。
 幸田まり子は、文芸誌でエッセイの連載を続けているベテラン作家。夫には先立たれているが、家には娘夫婦、孫夫婦もいて、ひ孫も生まれたところ。しかし、編集部から原稿の枚数は減らされ、仲間の作家たちも次々鬼籍に入るようになり、ついのすみかと思っていた家も四世代もいればさすがに手狭で、建て替え計画が密かに進行している。そのことを知ったまり子は、自分が家にいない方がものごとがうまく進むと考え、家出を決意する。
 しかし、ひとり暮らしをしようにも、不動産屋が80歳独身女性を相手にするわけもなく、インターネットカフェで寝泊りをすることに。ここで新しい刺激を得て、豁然と湧き出すまり子の創作意欲!(笑)
 えーと、これでまだ第2話くらいまでしか進んでなくて、この後、ネコを拾ってきたり、昔好きだった人と暮らすことになったり、いろいろあってやっぱり別れることになったり、ネットゲームを通じて友達ができたり、とまあ、やりたい放題ですよ。元気だねー。でもマジメな話、主人公の設定が変わると、当然見えてくる世界も違ってくるから、それだけでいろんな展開が起こってくるようになるんだなあ、とちょっと感心させられたよ。
 作者のおざわゆきは、『凍りの掌』とか『あとかたの街』とか描いてた人だよね。ただ、そっちはもうひとつ取り上げる気にならなかったんだよねー。この絵柄だと、どうしても甘くなるところがあると思ってさ。似たような感じに見えるかもしれないけど、こうの史代さんの場合は全然違って、そうはならないんだよ。これは面白いところだと思うけれど、作者の世界観みたいなものって、やっぱり絵に表れるよね。本当に考え抜いたかどうか、絶望と断念を自分のものにしているかどうかが。それは絵だけじゃなく、資料の扱い方だとか、肝心なときに、ありがちだったりあいまいだったりする表現に流れてしまうかどうかにも表れちゃうと思うんだよ。厳しいこといってるかね?
 で、それはこの『傘寿まり子』にも見られる欠点だと思う。よくわかんないところで登場人物を泣かせてみたりとかさ。まあ、本作は現代を舞台にした一種のファンタジーだし、そこで力強く生きていこうという作品でもあるから、吾妻ひでおの『失踪日記』みたいなもんで、あまりツライ方向にもっていってもしょうがないことはわかるのな。
 でも、3巻の時点でやっぱし本作を取り上げようかと思ったのは、この最後の方で、老人にとって、いや人間にとって、生きていく上で、面倒を見てくれるだけの血縁ばかりが重要なわけじゃない、地域の、そして友達との縁が重要になってくるっていうテーマに近づきつつあるような気がするからで、これはこれからめっちゃ大事なのよ!







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