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評者◆小嵐九八郎
滅びを目前にする時に
カタストロフ・マニア
島田雅彦
No.3315 ・ 2017年08月12日




■漱石が『坊っちゃん』を書いてから百十年ばかり経つ。漱石は近代人のエゴイズムを剔出して現代人の救い難い醜さを撃ち続けているし、谷崎潤一郎と川端康成は美の炙り出しによってなお読者を参らせている。太宰治はどの時代でも滅ぶということによる逆に不滅性を持ち、大岡昇平や一筋縄では行かぬが井伏鱒二、大江健三郎氏は社会的テーマに真向かって読み手を揺さ振り続け、島尾敏雄、野坂昭如、村上龍氏は男と女の不可思議性を追い感動を与え続け、五木寛之氏は仏教の底知れぬ心を訴えてやまぬ。
 おや、と、ワカランチャンの俺が小説の大家のテーマとその方向に迷い、頭を傾げだしたのは、三十年ほど前の村上春樹氏あたりからで、同じく島田雅彦氏についてもだ。春樹氏の語りは楽しいが、テーマが浅かったり後づけにしたようで、小説に信を置く人は戸惑いっぱなしになってるはず。雅彦氏のテーマは磯で七十センチのイシダイが食いつくほどに重くてその時時に新鮮なのだが、かなり斜に構えていてイシダイを釣り上げるのに二十センチのヤマメの仕掛けのよう。
 てな先入観を小説ファンの当方は抱いていたのだが、ところがどっこい、その島田雅彦氏の『カタストロフ・マニア』(新潮社、本体1600円)を読んだら、おいっ、凄え。帯に「このまま黄昏れちゃっていいのか、人類」「驚異の想像力で我々の未来を予見する、純文学×SFの到達点!」はなまじのCMでなく、真実に限りなく近い。
 凄え、と思った根拠は、マルクスの産業革命以来の短いスタンスの歴史観でなく、地球史、ホモサピエンス史、狩猟漁労を経ての農耕時代の長さから見ていること、現に起こり得る抗生物質への対抗菌、遺伝子組み換え、パソコンもスマホも頼るしかない電力、原発の危なさの分析力があることだ。この危機感は「人類の黄昏」どころでなく「破滅」とあり、ゆえに、人工知能などに無知な俺も説得力に降参した。
 二〇三六年の設定だが、人類は滅びを目前にする時に「どうするのか」の要の問いへの必死な答えも汗みずくで模索している。







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