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評者◆秋竜山
見るな、というから、見たくなる、の巻
No.3314 ・ 2017年08月05日




■中野明『裸はいつから恥ずかしくなったか――「裸体」の日本近代史』(本体七六〇円、ちくま文庫)を読む。女性の裸は恥ずかしくて、男性の裸は恥ずかしくないのか。と、もし子供に聞かれたら、どう答えたらよいか。動物は裸を恥ずかしがらない。人間だけである。それも、人間の女性だけだ。男性は女性の裸を見たがる。女性はどうだろうか。タイトルにあるように、〈裸はいつから恥ずかしくなったか〉ということは最初は恥ずかしくなかったということか。〈混浴、裸体画、女性下着……隠せば隠すほど見たくなる〉と、オビ。
 〈神話や昔話には、特定の人や場所を見てはいけないという禁止をモチーフにするものが多い。「我をな視たまひそ」という約束を破ったため永遠に別れざるを得なくなるイザナギとイザナミの神話はそのひとつのタイプとして著名である。また昔話には、男女の間に「次の座敷を見るな」という約束が成立したのに、それが破られるというストーリーをもつものが多数ある。いわば「見るなの座敷」である。このタイプの昔話には「鶴女房」「うぐいすの里」など多数ある。そして見るなの座敷型の昔話にほぼ共通するのは、女性が禁じる者、男性が禁を犯す者という配役である。男性が禁を犯すと、多くの場合、女性は鶴や鴬、白鷺に変身していずれかへ去っていく。〉(本書より)
 見るな、というから、見たくなるものである。だとしたら、女性の裸を「見るな」と、いうことになっているから男性は女性の「裸」を見たくなるし、見ようとするのではないか。最初に、男性の裸を「見るな」で始まっていたら、女性は男性の裸を見たくなったかもしれない。そして男性は「見るなの座敷」を持つことになる。
 画家になるためには、基本として女性の裸ばかりを描くことから始める。私などもマンガ家になるにはデッサンが大事だといって女性の裸ばかり描いていた。女性の裸のほうが男性の裸とくらべて、芸術的であるという理由であった。それに女性の裸だからこそ夢中になってやれたのであって、男性の裸なんて誰がやるものか。みんな、そーだと思う。
 〈日本人は裸体を顔の延長としてとらえていた。(略)裸体が徹底して隠されるようになると、「隠されると見たくなる」という意識が強く働く。そして隠された裸体は、人間の肉体が本来もつ性と強く結び付く。〉〈彼女たちは陰部の露出がはずかしくて、パンツをはきだしたのではない。はきだしたその後に、より強い羞恥心をいだきだした。陰部をかくすパンツが、それまでにはないはずかしさを、学習させたのだ。〉(本書より)
 フッと、本書とは関係ないことが浮かんだ。人魚を釣りあげた男に、人魚がわめいた。「あなたに、あたしのブラジャーをはずす権利はどこにもないはずよ!!」。人魚といえば、マンガに出てくる人魚が多いが、本来、人魚はブラジャーなどしていないものである。ところが釣りあげた人魚はブラジャーをしていた。まさに「見るなの座敷」である。人魚にしてみれば、釣りあげられたあたしは、あなたのものであったとしても、「見るなの座敷」は、あなたのものではないと、いう。さあ、どーするか。ブラジャーをはずして、ポケットにしまい、人魚を海へ逃がしてやるか。海へ放された人魚が男にむかってわめいた。「この、下着ドロボー」。







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