書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆ドリアン助川氏インタビュー
サン=テグジュペリ『星の王子さま』(皓星社)を出版した
星の王子さま
サン=テグジュペリ著、ドリアン助川訳
No.3313 ・ 2017年07月29日




■サン=テグジュペリは自らのリアルな経験から涌き上がる詩情、言わば永遠の別れを描いている
作家のドリアン助川氏が、仏語原書を細部まで読み込み、満を持して贈る『星の王子さま』全訳

■作家・道化師のドリアン助川氏が翻訳を手掛けた、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』(晧星社)が好評発売中だ。フランス語原書を細部まで読み込み、二〇一三年には心に響く言葉を厳選し、解説した『星の王子さまからの贈り物』を上梓するほどサン=テグジュペリに心酔するドリアン氏が、満を持して贈る全訳である。
 「フランス語を勉強し始めたのは二〇一一年、四九歳のとき。漠然と語学をやるには歳を取り過ぎている。だから元々大好きだったサン=テグジュペリ作品だけに絞って、すべて原書で読むぞと決めました」
 語学学校のアテネフランセに通い、フランス語検定二級も取得。「『星の王子さま』は一頁ずつ丁寧に、二年かけて徹底的に読みました」。実際に生誕の地フランス・リヨンも訪ねた。「訳者あとがき」には、自身撮影の写真とともに、その時去来した数々の思いが記されている。また、既訳もたくさんあるが、「自分がサン=テグジュペリになったくらいの気持ちで、全く新しい冒険心を持って臨みました。具体的な違いは、王子さまが七つの星を巡る場面で方言を入れたところです。違う星なのにみんな同じ言葉は変だなと思ったからです」。
 『星の王子さま』は、小さな星からやってきた王子さまと、サハラ砂漠に不時着してしまった飛行士との交流の物語。サン=テグジュペリ自身によるかわいいイラストとともに、よく知られた作品だが、物語そのものは一筋縄ではいかない奥深さをたたえている。
 「初めて読んだときは、入り口は入りやすいのですが、途中から詩的な表現の連続で、迷路に迷い込んでしまったような感覚になりました」と言う。例えば、危険なものとして描かれる三本の「バオバブの木」もその一つだ。
 「中学生のときには、それが何を意味しているのか分からなかった。しかし、いまなら分かります。その三本は、枢軸国のドイツ、イタリア、日本を指しているのだと思います。第一次、第二次という世界戦争がサン=テグジュペリに大きな影響を与えている。たくさんの死を見届けてきたのです。この王子さまも、死んでしまった子ども、誰にとっても自分の子どもと思える存在なのだと思う。例えば宮沢賢治の作品がファンタジーと思われてしまうことがありますが、彼はリアリストだと思っています。それと同じような意味で、サン=テグジュペリも自らのリアルな経験から湧き上がる詩情、言わば永遠の別れを書いている。しかもヨーロッパの父母の悲しみを知り尽くしているからこそ、本当は悲しい話を、彼一流の気配りで持ち前のユーモア精神をばりばりきかせているのです」
 そんなリアルな経験の裏付けがよく伝わってくるのが、七つの星巡りの中でも、ランプ係のいる五番目の星の場面だ。王子さまは、そのほかの星の住人を全く評価しないのだが、ランプ係については、「だけど、あの人はぼくがばかげているとは思わなかったただ一人の人だ。それはたぶん、あの人が自分のためではないことで汗を流しているからだ」と言うのだ。
 「サン=テグジュペリは、航空路開拓のために、南米やサハラ砂漠など人が住んでいないところをテストパイロットとして飛んだ。しかし夜間飛行でたくさんの仲間が死んでいます。夜の飛行場には、無電が途切れるような嵐が吹き荒れても、やはり明かりを灯す人が必要です。だから彼にとって明かりは特別なものなのです。そのイメージがあったのだと思う」
 共謀罪やヘイトスピーチなど表現の自由が明らかに脅かされている。「七〇年も読まれている『星の王子さま』から学ぶものはたくさんありますよ」と述べるドリアン氏に、物語を読むことの意味について聞いてみた。
 「もっともっと作家や画家や音楽家が生の充実感を味わえる場所を作っていくべきです。そこでの言葉がみんなの意識を作っていく。だから表現者はまず自分が幸せでなければいけない。これからは表現者自身の生き方が問われてくるでしょう。例えば嫌韓本と、『星の王子さま』を読む一日、どちらが幸せですか。中国や韓国の人のことをひどい言葉でののしる人がいますが、そいつらの魂のほうがよほど不幸に思える。それだったら僕は、明洞の屋台で韓国の友達と、湯気に包まれたムール貝とともに焼酎で乾杯する。それを見せつけてやります」
 一九〇〇年に生まれたサン=テグジュペリは、一九四四年七月に偵察任務でコルシカ島の基地を発進したあと消息を絶った。「結果的にこれが遺作になってしまいました。生きていればいま以上にすごい存在だったと思います。ほとんどの人が『星の王子さま』しか読んでいませんが、ほかの作品も圧巻です。本書を入り口にして、是非『人間の大地』なども読んでもらいたいですね」
 本書には、サン=テグジュペリが母親に宛てた最後の手紙の全訳も収録。隅々まで氏のサン=テグジュペリ愛に満ち溢れた一冊である。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約