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評者◆秋竜山
漫画家とアパートと結婚、の巻
No.3311 ・ 2017年07月15日




■森博嗣『「やりがいのある仕事」という幻想』(朝日新書、本体七六〇円)に、興味深いことが書かれてあった。
 〈実際に僕のところへ来る就職の相談で一番多いのは、「どうしたら小説家になれますか?」というものだ。大学で研究者だったときには、「どうしたら研究者になれますか?」とはあまり尋ねられなかった。なるのが難しいということがなんとなく伝わるからだろうか。国語の能力も不安だ(現に僕がそうだった。それに、意外かもしれないが、小説が好きである必要さえない(現に僕がそうだ))。〉(本書より)
 同じような相談が私のところへもよくあった。父親と本人が一緒にやってきた。本人は終始黙っていたが、父親がこーいった。「この子(息子)を漫画家にしたいのですが、まず二十三歳までに先生(私)の所へ弟子入りさせて、その後漫画家として独立させたいと思います」と、いうのである。世の中も変わったものだと、つくづく思った。私がこの子の同じくらいの歳の頃は(昭和三十年第前半)、漫画家になりたいなどという気持ちの青年(少年)たちも、いるにはいた。私もそーだった。しかし、漫画家になりたいなどという時代ではなかった。なぜならば一〇〇パーセント親に反対されたからである。「馬鹿なこというな!!」と、いう理由である。馬鹿なこというな!! ということには、すべて反対する理由がふくまれていた。まず、漫画家という職業がなかったのである。ある不動産へアパートを借りにいくと、「職業は?」と、聞かれた。私は小さい声で漫画家ですと答えた。すると、「アッ、そりゃ駄目だ。アパートなんか借りられない」と、即座にいわれた。つまり、漫画家などにアパート代を払うことはできないということであった。漫画家などのビンボー人にはアパートを借りる資格がないというのであった。そーいう眼で世間は見ていたのである。私は引きあげるしかなかった。すると、「私が連れていってあげるが、絶対に漫画家などと口にしてはいけない。どこかの会社のデザイン課のようなところへ勤めている!! と、いいなさい。そー嘘をつかなくてはアパートは借りられないからね!!」と、いうのであった。私は「ハイ」と答えた。そんな時代であった。
 〈映画監督の押井守さんと話しているとき、彼は、「どうしたら、映画監督になれますかって、きいてくる奴がいるけど、本当になりたかったら、もう映画を作っているはずなんだよね」と言った。僕もそのとおりだと思う。小説家になりたかったら、もう小説が十作くらい書けているはずだ。だから、どうしたら良いのかという答えは、「それを出版社に投稿してみたら」である。〉(本書より)
 「どうしたら漫画が描けるんでしょうか?」なんてのもいる。中学二年生の子が、いった。「僕は結婚しません」なぜならば漫画家になりたいからだ。と、いうのである。「漫画家では結婚しても食わせていけないからです!!」と、いう。「オイ!! そーじゃないだろ。漫画家になるんだから早く結婚すべきだろう」と、私がいうと、「いや、そんなことはできません」と、彼はいった。なんだか、わかるような、わからないような気持に私はなってしまった。それ以後彼は漫画家になったかどーか。漫画家を断念して結婚してしまったのか。







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