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評者◆稲賀繁美
日本の高等教育・学術研究の財政基盤はどうなってゆくのか――国立大学付置研究所・センター長会議(5月25‐26日)を傍聴して
No.3307 ・ 2017年06月17日




■ざっとした数字から確認しよう。国立大学を中心とする高等学術機関に給付される運営交付金は年額ほぼ一兆円。ただし「効率化係数」により各年1%の削減が講じられ、現時点では平成初期より年額で1300億円落ち込んでいる。平たく均せば大学毎で13億円の減額、人件費に換算すれば、各大学の(文系・教育系?)学部がひとつ潰れるのも不思議でない。これを補うのが競争資金。企業などからの助成金もあるが、平成21年度以降は激減傾向。文科省予算のうち交付金から競争資金に名目変更された額は、近年4~500億程度で推移している。残るは日本学術振興会の「科学研究費補助金」だが、これは高々250億円程度。
 つまり公的資金では、減額された予算の半分ほどしか補填できていない。その背景にはいうまでもなく国家財政の悪化がある。年号が平成に改まった頃から一般会計の税収は下向きに転じたが、歳出は平成元年度に66兆円規模だったものが、平成28年度には100兆円を突破した。累積する膨大な赤字を埋め合わすのが「特例」を含む多額の公債発行である。
 総額頭打ちの「科研費」だが、応募件数は10万件を超えた。新規応募のうち3万件ほどが採択されているが、全体での採択率は2014年度で28・6%。3割を下回る。10件のうち7件は落とされる計算だが、採択されても請求額全額が交付されるわけではない。充足率(請求額に対する実際の給付額の率)は内閣府からの指令もあり、なお70%を維持している。だがこれが「モラル・ハザード」を招く。
 7割しか給付されないと事前に分かれば、申請者側はそこから逆算して、上乗せ水増し請求に及ぶほかない。正直に必要額を提示してその7割しか貰えないのでは困るのだから。現実に、ほぼすべての種目で最高限度額の申請がなされている。これでは「鼬ごっこ」となる。およそ本来の意図に合致した研究補助などままならず、科研費事業は、制度設計破綻の危機に瀕し、改革を求められている。
 運営費交付金の不足を競争資金で補う体制を麗々しく「デュアル・サポート」と呼ぶらしい。だが恒常的運営に不可欠な経費を、安定供給の将来保証もない競争資金で補う発想では、現場に皺寄せがゆく。「付け回し」された学術振興会は「毒饅頭」を喰らうに等しい苦境に陥った(理事発言)。「毒も喰らはば」で、かえって耐性が付くとの淡い期待もあるが、基礎体力を奪われて免疫力が低下すれば、合併症を併発して瀕死ともなりかねない。
 機能強化予算や科学研究費補助金を潤沢に享受する少数のトップ大学と、中堅大学との格差拡大を文科省も危惧している。だがスーパーグローバル施策以降、日本の大学法人を格付けにより「研究大学」とそれ以外とに分断したのは、ほかならぬ文科省である。競争資金に付随する間接経費を、不利益を被っている機関に優先して還元するのでは循環論法だろうか。自己責任という名の切り捨て御免に加担することなく、大局に立ち、文理融合の叡智を結集できぬものか。
 百に及ぶ大学「付置研究所」所長が勢揃いする巨大会議からの帰途、戸部良一著『自壊の病理――日本陸軍の組織分析』(日本経済新聞出版社)を手にした。帯には「ヴィジョン不在、戦略なき選択、ガバナンス崩壊」とある。「エリート集団自滅のメカニズム」は、敗戦後70年を経て、見事なまでの復活・健在ぶりで、繁栄を謳歌している。







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