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評者◆小嵐九八郎
「真似って駄目なのか」、しかし……
北斎まんだら
梶よう子
No.3307 ・ 2017年06月17日




■中学生の時だったからもう五十年以上前か、自宅の隣りの町で“のど自慢”をやっていて聞きにいったら、“物真似の部”に移っていた。フランク永井の歌う「有楽町で会いましょう」とかを四十代半ばの中年が熱唱していて、フランク永井の渋い低音よりもっと迫力があり、「うんまいーっ」と歓声を拍手と共に送った。そしたら、「へっ、物真似は物真似だっ」、「偽フランク、恥を知れい」、「個性はねえのかっ」の野次のぶうぶうが湧いた。
 それ以来、とりわけ四十代で物書きや歌人と称するようになってから「真似って駄目なのか」、しかし、日本の和歌史の中での、特に新古今時代の“本歌取り”は先人の歌を取り入れての作歌法の一つだし、そもそも文化というのは漢字や仏教を含めて真似することが土台ではないのかという気持ちが続いてきた。「偽物だって偽物の方が輝くことも多多ある」への心も消せない。「個性」の概念も聞こえは良いが欧米の近代の考え方で、場合によっては自己確認要求や自己顕示欲へと直結するし、うーむと考えてしまう。
 日本の近代化の始まるずっと前の江戸後期の、かつ、大いなる、というより最大の浮世絵師の北斎についての最近の小説に、俺のあれこれ溜まっている思いについてが核となっているのに出会った。梶よう子氏の『北斎まんだら』(講談社、本体1700円)がそれだ。むろん、梶よう子氏はかなりの人気作家であり、北斎の変人ぶりや凄まじい誇り、「天才すぎて傍迷惑」(帯のコピー文)の面白さだけでなく、実の娘で代筆もしたであろう葛飾応為、こと、お栄のアナーキーぶり、弟子の美人画で名を為した渓斎英泉の抜け目のないおかしさと人物の描き方が何しろ楽しさをよこす。
 要の北斎の贋作をせっせと描くのは孫なのであるけれど、この人物の吐き出す居直りの言葉には、哀しさと、美とその継承・発展・稼ぎについての洞察がかなりあるのだ。
 面白さ、楽しさを殺いでも、ここいらの贋作精神に集中したのを梶よう子氏の作で読みたい。







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