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評者◆秋竜山
事実は小説より奇なり、夢なり、の巻
No.3306 ・ 2017年06月10日




■一番ガックリするのは、マンガとか小説など長いのを読んでいて、いよいよオチにかかるとたのしみにしていたのに、肝心なオチが「夢だった」と、いうことになって終わってしまうことである。一番面白くないのは夢の話を聞かされることである。「ゆうべ、こんな夢をみた」と、いわれても、それがどうしたということだ。夢だと最初からいってくれよ!! ってなものである。実は、今の話は夢だった!! と、いうやりかたはサギに近いだろう。それでも、最初から「この小説は夢である」なんて、ことわっているものもある。その場合、有名な作家の小説であったりしたら、「どんな夢だろう」という好奇心をもって読みはじめる。これは、だまされたという気はない。たとえ夢であっても、そのつもりで読んでいるからだ。
 千葉公慈『知れば恐ろしい日本人の風習』(河出文庫、本体六六〇円)で「夢」について。いつ、ミサイルがとんでくるかわからない時代だ。考えてみれば、このような世の中で生活しなければならないなんて、生まれて初めてだ。そんな中で夢や希望を持てなんてムリムリ。ムリだからそういうものにすがれというのか。わけのわからない時代に突入してしまったものである。
 〈そもそも「感情」自体がより本能的なものであり、「理性」や「知性」よりも素早く脳は反応し、伝達することができるのは、生存に対する欲求が主に本能によって支えられてきたことを指している。その意味で感情の発達、とりわけ恐怖に対する感性は、自分の命を危険にさらす敵を瞬時に見抜き、身を守るためには不可欠な存在として、あらゆる生命のリスクを回避してきた、いわば“安全装置”でもあった。〉(本書より)
 日本に古くから伝わる風習やタブー、季節の行事、子どもの遊びや昔話などによって、のり切ることができるというものだ、というのが本書のねらいでもある。そして、〈夢〉。
 〈先の「霊魂遊離説」に見たように、古来、日本人は夢の世界は現の世界とは別の異界であると考え、しかも夢で見たこと、すなわち夢の世界の出来事は、現実の世界で起こる出来事と何らかの関係があると信じていた。夢を神仏からのメッセージと受け止めていたのである。〉(本書より)
 よく考えてみると、小説など最初から本のページ数にしたがって読むということをするだろうか。するのが当たり前かもしれないが、読み手の性格上、最初の一行よりも最後の一行が気になって仕方がない。つまり、最初はどんなであってもよくて、最後の一行である。私などは、そのくちである。つまり、どのような終わりかたをしているか。最後のページを最初に読めばいいことだ。オチの部分である。ところが、オチが、「この小説は夢でありました」と、読んでしまったらどーなるか。カフカの『変身』では「朝目覚めたら巨大に虫になっていた……」で始まるから読もうという気にさせられる。「朝目覚めたら巨大な夢になっていた……」で始まったとして、そんな小説と誰がつきあうだろうか。ところが、いるのである。「どんな夢なんだろう?」なんてワクワクするヒトが。事実は小説より奇なり、夢なりである。







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