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評者◆伊達政保
花園神社の境内に、あの水族館劇場が初めて登場した――演出・桃山邑、女優・千代次の新宿公演「パノラマ島奇譚外傳・この丗のような夢・全」
No.3306 ・ 2017年06月10日




■新宿花園神社、このアングラ演劇の聖地ともいうべき場所に野戰攻城と称して高さ10メートル余りの大テントを設営し、あの水族館劇場が初めて登場したのだ。
 水族館劇場、70年代後半アングラの極北とまで言われ80年に解散した曲馬舘の流れを汲む劇団である。演出の桃山邑、女優の千代次は曲馬舘解散後、劇団「驪團」を経て87年水族館劇場を結成、筑豊から始まり東京の各神社境内、法政大学などで公演を行ってきた。2000年代には駒込大観音・光源寺を拠点として毎年公演を行う。アングラ直系の概念を表象するコトバが飛び交う台詞、大正、昭和、平成、そして戦前、戦中、戦後を通底する時間軸によって紡ぎ出される物語と、大量の水を使ったスぺクタクルの舞台は評判を呼び、多くの観客が押し寄せるようになった。ちなみに昭和のはじめ浅草水族館2階の劇場でエノケンの劇団カジノ・フォーリーが舞台で水を大量に使い評判となったというが、それが劇団名の由来かもしれない。オイラもここで曲馬舘以来の桃山、千代次との再会となった。
 2010年で大観音での公演は終了。以後、九州での公演を行い、2013年東京に戻り三軒茶屋太子堂八幡神社境内、翌年も同所で公演。しかし世田谷住宅地のど真ん中、騒音や多くの観客、いかがわしい雰囲気などの問題で、大観音の時と同様に公演を継続して行うことが出来なくなってしまった。あの大テン卜設営と大量の水を扱う立地環境や芝居内容も含めて都心部での公演は不可能となり、自ら大江戸所払いと称し、咋年はツテもあり三重県津市芸濃町で「パノラマ島奇譚外傳・この丗のような夢」の公演を行った。今回その同じツテを辿ることで花園神社での公演許可が下りたという。
 花園神社境内に立つ大テン卜脇の前芝居、それだけでワクワクする。大震災後に劇場を失った女優(千代次)は恋人を追ってシべリアへ亡命、それから数十年、敗戦後の廃墟へ大陸からの引き揚げ一座の老女優として帰ってくる。今回の公演「この丗のような夢・全」は新宿公演に合わせ昨年の作品を書き変えたようだ。新宿ムーラン・ルージュ劇場と赤い風車、闇市(尾津マーケッ卜の言葉)など、新宿のタームがちりばめられていたが、あまり生かされてはいなかったようだ。状況劇場へのリスぺクトか「唐版・風の又三郎」の設定もある。それらが劇中劇の乱歩「パノラマ島奇談」とメビウスの輪ように絡み合っていく。最後は決め技25卜ンの水を使った大瀑布と大噴水のエンディング。だが氷の涯の久作的世界と乱歩の密室世界じゃ、相性が合わなかったような気がした。今回、水族館劇場最高の観客動員数を記録したという。さすが花園神社。







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