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評者◆睡蓮みどり
カンヌ国際映画祭とファッション――オリヴィエ・アサイヤス監督『パーソナル・ショッパー』、アンドリュー・ロッシ監督『メットガラ』
No.3305 ・ 2017年06月03日




■さて、今年もカンヌ国際映画祭がはじまりました。2年前のカンヌではハイヒール論争等も巻き起こり、数多くある映画祭のなかでも最もスタイリッシュで敷居の高いこの映画祭。今年で70回目を迎える祭典ではペドロ・アルモドバルが審査委員長を務めることに。日本からも河瀬直美、黒沢清、そして三池崇史とおなじみの監督たちの作品がノミネートされている。個人的には、コンペティション部門のうち『アーティスト』(2012年)のミシェル・アザナヴィシウス監督の最新作『Le Redoutable』が気になるところ。ゴダールの元妻の女優アンヌ・ヴィアゼムスキーが書いた自伝を元につくられ、ゴダール役を演じるのはなんと愛しのルイ・ガレル。ガレルとゴダール、全然似ていないような気がするけれど予告編では似ていたし、似ているかどうかよりもガレルが出ているというだけで観たいと思うのに、巨匠ゴダールのプライベートな面が観られるってそれはもう、観ない理由がない。なので今から日本での公開が楽しみです。
 映画祭といえば注目されるのはスターたちのファッションもそのひとつで、今年もセクシーなドレスから個性的なドレスまで多くのスター、セレブたちが身に纏っている。オープニング/クロージングを務めるモニカ・ベルッチをはじめ、ファン・ビンビン、アルバ・ロルヴァケル、エミリー・ラタコウスキー、エル・ファニング、リアーナ……。このうえなく煌びやかでうっとりする美の祭典。『ゴーン・ガール』(2014年)で注目するようになったモデル出身のエミリーは、もっとスクリーンで観たいところ。まだまだ絶賛開催中ということで、賞の結果はもちろん、ファッションも気になっている。
実際に映画のなかでもハイブランドが衣装協力をすることは多々あって、最近だと『ネオン・デーモン』(2017年)、『華麗なるギャツビー』(2013年)あたりは衣装の豪華さが話題になった。去年のカンヌで監督賞を受賞したオリヴィエ・アサイヤスの『パーソナル・ショッパー』も、前作『アクトレス~女たちの舞台』(2014年)と同様、シャネルが衣装協力している。今回はクリステン・スチュワート演じるモウリーンが、多忙なセレブの代わりに買い物をする役=パーソナル・ショッパーを演じる。シャネル以外にもカルティエなどハイブランドが続々登場。それにしても、オリヴィエ・アサイヤスをシネコンで観る日が来るというのは、何とも不思議な気分である。シネコン向きかどうかわからないが、今回は音が非常に重要になってくる心理ホラーなので、できるだけ音響のいい劇場で観るのをおすすめする。クリステン・スチュワートは『アクトレス』でジュリエット・ビノシュ演じる大女優のマネージャー役で出演、セザール賞をはじめ多くの助演女優賞を獲得した。普段ラフなスタイルのモウリーンと、ドレスを身につけた(この映画では禁忌を犯すことを意味する)モウリーンの変化に注目してほしい。ドレスを着ることはひとを変えてしまうのだ。
『メットガラ ドレスをまとった美術館』というドキュメンタリー映画がちょっと前に公開された。VOGUEの編集長アナ・ウィンター主催のファッションの祭典メットガラの、2015年「鏡の中の中国」を記録した作品。美術監督は映画監督のウォン・カーウァイが務めた。今年も5月頭にはじまったばかりで(9月4日までニューヨーク、メトロポリタン美術館で開催中)、コム・デ・ギャルソンの創始者・川久保玲をテーマにしている。アナ・ウィンターといえば、『プラダを着た悪魔』でメリル・ストリープが演じた悪魔編集長のモデルといわれている人物である。このなかでは「ファッションはアートなのか」という問いかけが出てくるのだが、即座に「はい、アートです」と心のなかで呟いていた。
 それまで絵画や彫刻に比べてファッションの位置づけは高くなかったが、その意味合いは変わりつつある。これだけ自由なファッションを楽しめる一方で、自分に似合う洋服を探すということは簡単なことじゃない。流行ものの服を着たからといって似合うこととは別だし、そもそも自分の個性・趣向を理解しない限り、好きな服は見つかっても、着こなすことは難しいだろうし。以前、とあるバーですごくお洒落なマダムと隣り合わせた。「ファッションは着崩すことが大切なの」と教えてもらった。私みたいにファッションに疎いほうからすると、着こなすのにも精一杯なのに、さらに着崩すなんて……! と、余裕っぷりをまえにあたふたしてしまったのだった。このドキュメンタリー映画のなかでも、誰もが知っているようなセレブたちが、テーマに合わせたドレスを身に纏ってやってくる。映画に記録された年に同イベントでパフォーマンスを披露したリアーナも、2年がかりでつくったという黄色いドレスで圧倒的なインパクトを残した。絵画や彫刻と違って誰が着るかによっても、その衣装自体の価値は大きく変わってしまうものかもしれないが、その価値の変動ぶりにこそ、ファッションをアートだと断言する意味があるような気がする。
(女優)







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