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評者◆小嵐九八郎
青少年より、大人のハートを撃つ小説
マコの宝物
えきたゆきこ
No.3305 ・ 2017年06月03日




■アルバイト先のある私大で、当方は年一度は宮沢賢治の『鹿踊りのはじまり』か『よだかの星』か『銀河鉄道の夜』をテキストに使う。惚けて細部を忘れていては学生さんに済まないので再読の上にまた読んでから講座に向かう。土の強烈な匂いとか、法華経という宗教への思いゆえの死の世界の凄まじく清冽な描写とか、読む度に吐息の尾っぽを引きずる。
 だけど、宮沢賢治はこの童話というか児童文学で、読み手の年齢層をどう設定していたのかいつも惑う。十歳から十五歳ぐらいの少年少女に語りかけて遊びたい気分は確かにあっただろうし、そこの魅力は何世代と引き継がれてきている。しかし、どうも、むごさを孕む子供の純な気持ちを引きずって大人になっちまった世代を撃つのがメインだったような気がするのだ。
 ということがあり、本紙四月二九日号の「カルチャー・オンザ・ウェッジ」の伊達政保さんの文の薦めに触発され、えきたゆきこ著、『マコの宝物』(現代企画室、本体1500円)を読んだ。
 どうやら舞台は山口県の山と野の中あたりらしく、時代は一九五五年から一九六〇年代半ばぐらいで、時や年齢は交叉しながら書かれているが主人公の少女は小学校に入る前から中学生になった頃までだ。当方の秋田や川崎の少年時代に重なり、こんなことを小説鑑賞上でまず感じては良くないのだろうが、懐かしさに泣いてしまった。但し、少女の心は思いやりや怒りを含めてより深いし、自然との関わりは濃密である。何より、友達や近所のお兄さんや核家族前の大家族のしがらみときずなが熱い。やっぱり、青少年より、大人のハートを撃つ小説と映った。それも、筆こそ抑えているが必死、切実な魂の訴えとして共同体のあり方を……。
 えきたゆきこは、本名・浴田由紀子氏、あの炎の全共闘世代の後退戦の中で日本史上で党派の人間が仰天することを為し、アラブ人超法規的措置で渡り、日本で二十年の刑を終えて出所したばかり。魂の訴えの在り処が見えてきて……哀しく、凄い。







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