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評者◆伊達政保
ここに一人の児童文学作家がデビューした
マコの宝物
えきたゆきこ著・清水眞砂子解説
No.3301 ・ 2017年04月29日




■ここに一人の児童文学作家がデビューした。えきたゆきこ著・解説/清水眞砂子(児童文学者、『ゲド戦記』訳者)『マコの宝物』(現代企画室)。児童文学なんて読んだのは、森詠氏の『オサムの朝』以来だ。
 この作品は山奥の村に暮らす主人公マコの小学生時代のエピソ一ド、大きく分けて村の話とおじいさんの話の二つによって構成されている。著者はオイラと同い年だから、1950年代の話ということになるだろう。著者の分身であろうマコの目を通して描かれる村の風景や、子供らとそれを取り巻く大人たちが綾なす一つの社会、共同体とでもいったらいいのだろうか。それは教育勅語なんぞで出来上がったものではない。それらの描写が実に素晴らしい。人々やその生活する風景が目に見えるようだ。出身地方や方言が違っていても、オイラにも思い当たり心当たることばかりだった。
 誤解してもらっちゃ困るが、現在の時点から子供の目線で、望郷の念にかられて昔は良かったと懐かしむような作品ではないのだ。当時の子供の目線で、子供や大人そして村の社会を見ているのだ。まあ、後から獲得した社会性がチラホラ窺えるがね。解説の清水氏が「子供を庇護の対象としてのみ捉える愚をおかしてはいません」と、なるほどうまいことを言っている。子供の素直で明るい部分ばかりでなく、おそれや闇の部分も描かれているのだ。
 著者のそうした目線に思い当たることがある。45年前、著者を含む年齢の違う仲間たちと韓国旅行をした時のことだ。ソウル南山裏のスラムに皆で迷い込んだ時、いつの間にか著者は子供たちの中にいて一緒に遊んでいた。子供たちと遊ぶのではなく、子供になって遊んでいたのだ。皆であきれていたが、それが出来る感性が昔からあったのだ。パレスチナの難民キャンプでも、きっと子供たちと遊んでいたのだろう。
 著者の本名は浴田由紀子(仲間内のあだ名はチンペイ)で著者紹介にある通り74年に東アジア反日武装戦線「大地の牙」、75年に逮捕後、77年に日本赤軍のハイジャック闘争で超法規的釈放、アラブヘ。95年強制送還の後服役。今年3月、20年の刑期を終え出所した。本書は獄中で書き続けられ、幾度もの推敲の後、出所に合わせて刊行された。テック(谷川雁専務)労働争議支援闘争、軍事郵便貯金返還闘争、ミクロネシア遣族戦後補償ロペス闘争、著者と一緒に戦った仲間の多くは出所を待たずに鬼籍に入ってしまった。平岡正明氏、朝倉喬司氏、布川徹郎氏、船戸与一氏。彼らに成り代わって言うなんてのはおこがましいが、一言挨拶をのベておこう。「チンペイ、作家デビューおめでとう。長い間、お疲れさま」。







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