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評者◆ぱせり
太陽は屈服させるべき敵だ
年月日
閻連科著、谷川毅訳
No.3301 ・ 2017年04月29日




■その村では、長いあいだ、ひどい日照りが続いていた。作物は全く育たず、村人はみな、乾ききった土地から出ていった。残ったのは72歳の先じい、ひとりだけだ。たまたま彼の畑から、ただ一本だけ、トウモロコシが芽を出しているのをみつけたため、このトウモロコシの守をするために残ったのだ。厳しい雨乞いに両目をつぶされてしまった盲犬メナシが、彼の相棒だった。
 先じいの村の雨乞いは、龍神の祭壇に生きた犬を据え、太陽を睨ませ、吠えたてさせる。太陽がじりじりとあとずさりして、風と雲が現れるまで(さもなければ、犬の目がつぶれるまで)。また、先じいは、続く日照りの昼間、太陽に向かって、鞭をふるう。照りつける太陽を罰するためだ。先じい(たち)には、太陽は、畏れ敬う存在ではなく、屈服させるべき敵だ。
 何か月も、およそ一年近くにわたって続く日照り。天、地、生きものたちすべてが牙をむいて襲い掛かってくる。もういい加減になんとかしてくれ、と読みながら喚きたくなる。この静かな地獄の、過酷な一刻一刻に抗う、骸骨のようなこの老人のどこにそんな力があるのか。そして、盲犬、なぜそこまで忠義を尽くそうとするのか、静かな健気さがたまらない。
 酷い光景が広がっている。ここで、人と犬とに守られて、トウモロコシは育つ。決して順調ではないが、この日照りに枯れずにいるのは奇跡のよう。老人と犬とが食べるために育てているわけではない。それどころか、トウモロコシのために自分の命さえも犠牲にしようとしている。ただ一本のトウモロコシ。自分一人では育つこともできない、一日だって生きながらえることもできないこの植物は、先じいにとって、いったいなんなのだろう。
 読み終えて表紙の絵を見ていると、まるで、トウモロコシのほうが人と犬とを守っているように見えてくる。トウモロコシを中心にして、人も犬も光のなかにいるように見える。希望や絶望から切り離された静まりのなかで、三者、輝きを増しているように見える。

選評:今回取り上げる本は、現代中国文学における巨匠、閻連科の小説。農村で繰り広げられる生の営み・苦しみ、寓意的だが現実味のある話だ。ゆっくり、時の流れを感じながら読んでみよう。
次選レビュアー:ゆう5000〈『震災後の不思議な話』(飛鳥新社)〉、踊る猫〈『プルーストと過ごす夏』(光文社)〉







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