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評者◆ベイベー関根
暮らしを描くということは、今とどう違う?
ちひろのお城
千明初美作品集
No.3297 ・ 2017年04月01日




■さあ、しばらくぶりに古きよき少女マンガでも読むか! いいのが出たんだよー、千明初美(ちぎら・はつみ)『ちひろのお城』!
 知ってる人は知ってると思うけど、高野文子の同人誌時代の先輩にあたる作家で、この本の刊行も、高野さんが言い出しっぺになってるみたいだなー。
 千明さんは高野さんの6年先輩にあたり、1970年に『りぼん』でデビュー。マイペースに、かつコンスタントに作品を発表し続けてきて(けっこう長いページのものもある)、今は学習漫画を舞台に活動中。
 実は、70年代の『りぼん』って、けっこうリアルタイムで熟読していたもんで、どんな人だったっけと思ったら、高野さん謹製の縮刷版(?)の「蕗子の春」や「雨のぬくもり」の絵を見て、あ、この人か! とすぐに思い出した。連載とかをやっていたわけではないけど、そういえば胸にくる作品が多かったなあ。
 収録された作品は、高野本人によれば「昭和の子どもたちとおうちの中が絵に描かれているものを中心に」選ばれているが、読者としては、母と子の情愛や、内攻性や貧困などの問題を抱えた主人公がなんとか生活にバランスを取り戻す、といった主題が目につく。一条ゆかりとか陸奥A子とかの裏で、こんなマンガが載っていたんだなー。
 こういう「ザ・昭和」な少女マンガは、確かに80年代以降あまり流行らなくなったんだろうけど、作品の輝きは今も驚くほど失われていない。どのコマも本当に丁寧に描かれているぜ~。記号的な表現を採用しないことがないとはいわないまでも、それ以上に人物の動きやものごとのひとつひとつがその都度発見されたかのような新しさをもって描かれている。
 ストーリー上でも、表題作「ちひろのお城」に描かれる自分ひとりの世界へのこだわりや、「バイエルの調べ」のおかあさんの(度を超えた)そそっかしさ、いずれも今なら別な名前をつけられるだろうけれど、作者はそんなことばでの囲い込みは避け、そうした人たちが日常に溶け込めるようにと、周りが手を差し伸べる展開を用意する。やっぱり世の中そうあってくれなくちゃね!
 あと、きちんと「人の暮らし」を描いているところも素晴らしいね。しかも、とおりいっぺんじゃなく、すみずみまで目が届いてる。「お二階は診察室」で、4人の子供が2組の布団で寝てたり、日の入る2階が特上の遊び場になったり、デカいツギを当てられて泣いちゃったり、親戚のおばさんがお古の服を送ってきたり、といった描写なんか、「あるある」を超えたホントに貴重な体験だと思う。こういう作家が同人誌(コミケより全然前!)から出てきているって、今から思うと驚きだよなー。
 ともかくこれはいい本ですよ。続刊(ないし全集)が出るためにも、ぜひ1冊お買い求めいただきたい! 本体2000円と、復刊ドットコムにしちゃ安めな価格設定なのも嬉しいね!







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