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評者◆内堀弘
夭折の詩人が遺したもの――日本のランボー=平井功を追いかけて
No.3296 ・ 2017年03月25日




■某月某日。平井功は昭和初頭に二十六歳で夭折した詩人で、日夏耿之介をして「日本のランボオ」と言わしめた。詩集『孟夏飛霜』(大正11年)を十六歳で上梓し、驚くほどの才気を示した。天才詩人とはこういう人を指すのだろうが、いま広くは知られていない。だが、古書の世界ではずっと伝説的な存在だ。生前の詩集はこの一冊だけで、第二詩集『驕子綺唱』は原稿まで整っていたが未刊に終わった。その幻の詩集が西荻窪の古書肆盛林堂から出版された。
 夭折作家には偏愛としか言いようのないファンがいる。私が平井功の詩集を手にしたのは、昭和五十年代のことだった。
 お客さんに熱心な日夏耿之介ファンがいて(自分は日夏先生の弟子と自認していた)、平井功(つまり兄弟子)にも心酔していた。渋谷で初めて会った。五つほど年長だったが、収入のほとんどを蒐書にかけているようだった。「私は大学に行かずに地元の信用金庫に入りましてね、渋谷の喫茶店なんて知らないんですよ」と屈折した言葉が印象的で、「これはビジネスです」と、重複してお持ちだった平井功の詩集を私が買うことになった。そのとき「未完の詩集の原稿が遺っているんですよ」と聞かされたが、私は目の前の支払いの算段で頭がいっぱいだった。
 この人は病的なほどに日夏耿之介周辺の古書を蒐めては、急に手放した。かと思うと、また蒐めはじめる。私はそのときどきの本の出し入れに付きあった。平井功には優れた造本感覚があって、中でも『游牧記』(彼が手がけた文学雑誌)の局紙刷版は出色の出来だった。その明朝活字の美しさといったらない。でも内堀さん、あの雑誌には別刷の「趣向書」があってそれにも特製があるはずなんだ。見つけてください。平井功のことになると話は必ずそこにいった。ある頃から電話が来なくなり、郵便物は転居先不明で戻ってきた。しばらくして母親という人から電話があり、半年ほど前に亡くなったと報された。「どんな子でしたか」と訊かれ、大学で学べなかったことをバネに大変な読書家になられていたと話した。すると戸惑ったように、彼が所謂一流大学を出て大手金融機関に勤めていたことを話しはじめた。平井功が合同詩集の略歴に「学歴なく」と書いたことがある。私はそれを思い出して、何か腑に落ちたような気がした。
 あれほど見つからなかった『游牧記』趣向書の特製を一昨年、そして今年と二冊見つけた。本はこんなふうに姿をみせる。







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