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評者◆伊達政保
本書を読まずして松方弘樹を、ましてや日本映画を語ることは出来ない
無冠の男――松方弘樹伝
松方弘樹・伊藤彰彦
No.3295 ・ 2017年03月18日




■銀幕のスター、映画俳優の松方弘樹が1月21日に死亡したことが伝えられた。その少し前、BS日テレで再放送され録画しておいた松方主演の90年TVスぺシャル版『柳生武芸帳』を見直したばかりだったので驚いた。なんと2月8日には松方弘樹・伊藤彰彦著『無冠の男‐‐松方弘樹伝』(講談社)が発売されるというのですぐさまアマゾンで予約したが、追悼本がこんなにも早く発売されるとは。
 本書を読んで諒解した。この本は松方が病気発症前の2015年10月から12月にかけて行われた20時間に及ぶインタビューにより構成されていた。共著者である伊藤彰彦はあの名著『映画の奈落‐‐北陸代理戦争事件』(国書刊行会、講談社+α文庫)の著者である。翌年2月松方は脳リンパ種で入院、闘病中にもかかわらずインタビューのゲラチェックを行うも再び倒れ、刊行を急ぐも校了直前に亡くなってしまったという。結局は、この本が松方最後のインタビューとなったのだ。結果的に追悼として出版されることとなってしまったが、本書はただの追悼本ではなく映画俳優・松方弘樹の本格的な伝記なのだ。
 松方の父は戦前戦後の映画スター近衛十四郎で、戦時中の映画不況、戦後の時代劇不況の頃は大衆演劇で全国を回っていた。よって彼も実演と映画の両方を知る数少ない俳優であり、現役で両方を往還していたのは彼だけだったという。
 さて伊藤は松方を「遅れてきた最後の映画スター」と位置付けている。現代劇でデビューしたのち、時代劇、仁侠映画、実録やくざ映画、時代劇大作、Vシネマと主役を演じつつ、各ジャンルの終焉に立ち会うこととなった。確かに俳優として各ジャンルの最盛期には遅れていて、そのジャンルの主役を張る頃にはそのジャンルが衰退していくといった歩みとなっていた。しかし、そのことによって半世紀以上も主役を演じ続けていくことになる。
 オイラが松方弘樹を映画で見たのは二人の東映城の若様として、市川右太衛門の息子の北大路欣也と一緒に売り出した頃だった。以後、各ジャンルの脇役から主役に至るまでを見続けてきたといっていい。しかし本書を読むまで何も知らなかったのだ。彼の立ち回りの残心と見栄を一致させる殺陣、立ち回りだけでなく役者として役作りヘの執念はどうして生まれたのか。彼個人の藝やス夕ーとして生活することへの自負、内側から見た撮影所の時代史や、中村錦之助、鶴田浩二等、キラ星のような多くの映画俳優との関わりが明らかにされている。「“男高倉健”はまったくの虚像です」と彼は言い切る。本書を読まずして松方弘樹を、ましてや日本映画を語ることは出来ないのだ。







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