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評者◆秋竜山
ダラダラは時間の使い方、の巻
No.3294 ・ 2017年03月11日




■若い時。「オイ!! ダラダラやってないで、もっとチャッチャとやれ!!」と、年上の仕事仲間からどなられた。もちろん私はダラダラやっているつもりはないが、ダラダラに見えたのであろう。自分ではチャッチャとやっているつもりであったとしても、チャッチャとやっているようには見えなかったのであった。世の中に、生かすも殺すもというような仕事があろうとは、社会人になっての初仕事の体験であった。夢みるマンガ家青年の社会人一日目の仕事として、漫画を描くどころか冷汗をかいたのであった。その日の前の晩に、父の知り合いの知り合いという人がやってきて、「お前ンこの息子に」と、仕事を持ってきてくれたのだ。今でこそ考えられないことであるが、海底へもぐって作業する潜水夫に酸素を送る管を通して船上で「ガッチャン、ガッチャン」と音を立てて酸素を送る器械を両手で上下に上げ下げし続ける作業であった。機械的といえばむしろロボット向きだろう。ポンプで海底の潜水夫に酸素を送り続けなければいけない。
 もし手を止めて送るのをやめてしまったら、海の底で作業しているひとりの潜水夫はチッ息して死んでしまう。まさに、「神ってる」動作による仕事であった。この世に人命ほど、とーといものはなし。私ははからずもダラダラと、いわれたが、秒きざみのようなガッチャン・ポンプを正しい速度でおし続けるということに、死にもの狂いになるのは当然であった。
 メリル・E・ダグラス&ドナ・N・ダグラス『「ダラダラ癖」から抜け出すための10の法則』(川勝久訳、日経ビジネス人文庫、本体七五〇円)という本。
 〈時間は、われわれが生きていくうえで一番大切な“資源”である。資源とは、いつでも使える状態にあるもの、あるいは、いざという時に頼りにできるものである。時間は見事にこの定義にあてはまる。(略)時間という資源がほかの資源と違っている点を一つあげるとすれば、それは、使わなくてもどのみち消えてなくなるということだ。(略)一日二四時間という「持ち時間」を上手に使いさえすれば、余分の時間を手に入れることができるのだ。そうしなければ、時間の浪費家と同じ量で我慢するほかはないのである。〉(本書より)
 ダラダラとは、時間の使いかたそのものであると思える。船上でガッチャン、ガッチャンと両手で上下に動かしてポンプで酸素を送る作業にはダラダラ行為はゆるされるものではないのである。必死という言葉があてはまる作業でもある。私は不安でもあった。なれたベテランはヘイチャラらしいが。図々しくなるということらしい。私にむかって、「オイ!! ダラダラやってないで、もっとチャッチャとやれよ」と、大きな声でいうこの道のベテラン氏に「やってます」と答えるべきより、そんなことに気をとられて両手を休めるべきでないと思った。海底からは作業している潜水夫の息をしている酸素のあぶくがブクブクとあわとなってのぼってくるから、これだけが生きているたよりである。もし、何かしらの危険があった時は、酸素ポンプの筒とは別に命づなというものがあり、潜水夫はそのつなを引っ張って知らせるようになっていた。ダラダラとやっていないのに、そのように見えなかった私が悪かったのか。別に事件もなく無事に酸素を送り続けられたようであったが、私の社会人はじめての仕事がこれであったのは、私の人生において、よかったか悪かったかよくわからない。ダラダラやってはいかんということか。







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