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評者◆伊達政保
現実社会の方がシュールに見えてくる――つげ忠男の最新作『成り行き』(ワイズ出版)と、瀬々敬久監督が映画化した『なりゆきな魂、』
No.3292 ・ 2017年02月25日




■つげ忠男の漫画はオイラ随分昔『ガロ』で読んで以来、たまにポツリポツリと読んできただけで、愛読者というわけでもない。作品自体も断続的な発表だったので、まあ読んでいることになるのだろう。咋年、たまたま本屋で最新作『成り行き』(ワイズ出版)を買ったのも、帯に「瀬々敬久監督による映画化決定」とあったからだ。瀬々監督といやぁ『ドキュメン夕リー頭脳警察』や自主映画の大長編『ヘヴンズ ストーリー』、メジャー大作の『64ロクヨン 前・後編』など製作形態やジャンルを問わず活躍している。彼がつげ忠男の作品をどう映画化するのか興味津々だった。
 まずは漫画から。新作の「夜桜修羅」「成り行き」、リメイク版の「懐かしのメロディ」とその旧版が収められている。ほのぼの感が増した画風の中、現在の社会批判を含んだシュールな世界が描かれていた。驚いたのは旧版「懐かしのメロディ」。画風が現在と随分違っている。思い出した。作者も題名も忘れてたが、つげ忠男を最初に読んだのはこの作品だったのだ。
 さて瀬々監督の映画『なりゆきな魂、』だ。原作を元に、オムニバス作品だが緩やかな繁がりを持ったものともなっている。「成り行き」の、釣りに出かけ、偶然男女の争いに巻き込まれて殺人を犯してしまう老人二人を、柄本明となんと映画監督の足立正生が演じている。この二人が、原作のほのぼの感とそれを上回るリアルさを表していて、実にいい。どこにでもいる老人の行為として納得させられてしまう。まさに配役の妙味というところだろう。
 「夜桜修羅」の、初老の男忠男(『無頼平野』でつげ忠男を演じた佐野史郎が再演)は、花見で偶然出会った男女が凄惨な殺し合いに発展していくのを、ただ凝視せざるをえない。原作はシュールな修羅場の中に現実社会の修羅場的状況を重ね合わせているのだが、映画では余りにもリアルな修羅場に目を奪われ、現実社会の方がシュールに見えてくる。まあシュールったってシュールレアリズム、監督はその本質を逆手に取ったのかもしれない。
 「懐かしのメロディ」の戦後バラックの無頼漢サブの話と、それを思い出す老人(「成り行き」の片割れ柄本明)の彷徨。そして監督のオリジナル・ス卜ーリー、深夜高速バスの事故によって運命が翻弄される、被害者と残された遺族、それがまるでパラレル・ワ一ルドのごとく、被害者が遺族となり遺族が被害者となる世界が重層的に展開される。このエピソ一ドが一番シュールであり、結末のない世界が描かれている。
 この映画は瀬々敬久監督による『つげ忠男のシュールレアリズム』(つげの単行本名でもある)なのだ。







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