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評者◆ベイベー関根
実在する風景/潜在する風景
ヴェネツィア
谷口ジロー
HERE ヒア
リチャード・マグワイア著、大久保譲訳
No.3291 ・ 2017年02月18日




■ん、そういえば、この欄では、谷口ジローをまだ取り上げてなかったなと思い当たる。たまたまあんまりマンガマンガしてない『ヴェネツィア』が出たばっかなので、他では推されにくいこういう作品を推すのが生きがいの当連載としては、そらーやったろうじゃないの! となった次第。
 A4で横長の判型。フルカラー。極端に切り詰められたネーム。よくこんな企画が通ったなと思ったら、もともと「ルイ・ヴィトン・トラベルブック」というフランスで企画刊行されたシリーズの一冊との由。そういう事情があるにせよ、この日本版を刊行した双葉社はやっぱエラいな。
 中を開いてみると、絵葉書のように美しい風景画、のようなコマが次々と飛び出してくる。なるほど、「トラベルブック」企画なわけだ。当然その繊細な色、細密なタッチ、的確な構図の選択には舌を巻くほかなし。ただ絵がうまいだけでもなく、コマによってはさまざまなアプローチを同居させていたり(たとえば、空は街並みに比べてかなり自由に描かれているように見えるし、水面の表現もスゴい)、ページの中のコマ割りやコマの組み合わせにもずいぶん気を使ってるようだなあ。
 物語は、母の遺品の中に見つけた絵葉書とセピア色の写真に映る男女の姿に誘われてヴェネツィアに向かった主人公が、かの地の美しい風景、そして見たこともない祖父と祖母がそこにいた、よすがとかこだまみたいなものにふれて心動かされる……というもの。
 祖父と祖母の織りなすバックストーリーも面白そうだが、作品はそこまで踏みこまない。主人公はさまざまな風景に出会い、そこに生きる人の営みに癒されていく。ちなみに、どこの風景なのかは、巻末の地図を見るとわかるしかけ。
 あとがきを読むと、谷口ジローにとっては、マンガに彩色する仕事はほぼ初めてらしく(カバーのイラスト等は、ちょっと違う仕事ということか)、その新鮮さに自ら驚くくだりには、かえってこちらがその率直さに驚かされるくらいだ。
 限定された場所の中で過去の時間や回想が去来するという点では、昨年刊行されたリチャード・マグワイア『HERE』をちょっと思い出したなあ、全然アプローチは違うけど。
 こちらは、ある部屋をめぐる記憶や歴史が数年~数億年単位で行きかい、混在するというめちゃくちゃ意欲的な作品。作者のマグワイアは、1980年代から活動している「リキッド・リキッド」というバンドのベーシストでもあり、アフリカ・バンバータにもサンプリングされたという(笑)クセモノだ。
 ちなみに、こちらもフルカラーで、作画上でも多くの技法を駆使した素晴らしい出来ばえ。物語(?)は家族の歴史から、いつしか国家~惑星の歴史へと歩みを進め、その先には……。
 というわけで、かたや実在する風景、かたや潜在する風景を扱いながら、意外に似た問題を考えているのかもしらんのう!







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