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評者◆添田馨
象徴と民心⑤――日本国民総合の危機ということ
No.3291 ・ 2017年02月18日




■先日、横浜で開催された白井聡の講演「象徴天皇制とは何か」において、「天皇制民主主義(imperial democracy)」という言葉をはじめて聞いた。アメリカの知日派の知識人らが、天皇を、戦後の日本における民主化リーダーに役割転換させるという構想のもとに、太平洋戦争が終結する前のかなり早い時点から使っていた言葉らしい。戦後民主主義と象徴天皇制が矛盾なく共存している現在の姿は、案外、天皇制の永い伝統に則ったあり方とも実はマッチした制度形態ということだろう。
 アメリカでは、トランプ新大統領の就任式が済んでも、国内の分断が止まらない。支持率四割という低さに加え、就任式への参加ボイコットを表明した議員も多く、また、大規模な抗議集会やデモなども各地で吹き荒れた。式典参加の要請を断わった著名歌手の名前なども漏れ伝わってきており、事態が尋常ではないことを告げている。これを、多様性国家アメリカの国民的統合が危機に陥っている姿だと感じている人は多いはずだ。
 国内に目を転じると、現われ方こそ違え、統合よりも分断にむかうさまざまな現象がやはり同時進行している。沖縄の基地問題などはその最たるものだ。また、社会の各階層における所得面での格差拡大も、こうした分断を助長する大きな要因のひとつだろう。
 憲法の定めるところでは、天皇は日本国の象徴であると同時に、日本国民統合の象徴でもある。このことを最も真摯に受け止めているのが、他ならぬ今上天皇であることに異論をはさむ者はいないだろう。であるならば、国内のこうした分断に対し、陛下もいたく心を痛めているのではないかと容易に想像がつく。分断が決定的になれば、象徴としての地位にとってそれは最大の危機だからである。
 わが国の民心の大多数が、今上天皇に対して敬愛的であるのは決して理由のないことではない。そして、その民心にいま最も敵対しているのが安倍官邸である事実も、一層くっきりと浮き彫りにされている。







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