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評者◆殿島三紀
この歴史を心に刻む――サラ・ガヴロン監督『未来を花束にして』
No.3289 ・ 2017年02月04日




■『皆さま、ごきげんよう』『聖杯たちの騎士』『網に囚われた男』『沈黙』等を観た。
 『皆さま、ごきげんよう』。オタール・イオセリアーニ監督作品。グルジア(現ジョージア)出身でパリ在住の82歳。旧ソ連圏の監督には反骨、風変わりな人が多いが、この人もその一人。フランス革命のギロチン台に始まり、現代のパリの横断歩道を野良犬が歩く風景に終わる本作。一見なんの脈絡もないようなエピソードから成るオムニバスだが、緻密な計算に基づいた美術展のような映画だ。
 『聖杯たちの騎士』。73歳のハーバード大学哲学科出身の巨匠テレンス・マリックの最新作。タイトルはタロットカードの札から来ている。大スターたちが出演を熱望するという巨匠の作品だけあって、クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、ナタリー・ポートマン、アントニオ・バンデラスと綺羅星のようなスターが出演。だが、今更、セレブリティのパーティやら成功者の心の闇を見せられても……。
 『網に囚われた男』。二つに分断された朝鮮半島の悲劇を抉り出したキム・ギドク監督の渾身の一作。漁船のモーターが故障し、韓国との国境線を越えてしまった北朝鮮の平凡な漁師の身にふりかかった不条理な運命。この半島が抱える問題点を鬼才はあらためてつきつめてきた。キム・ギドクは本作によって一段高いステージに進んだといえる。
 『沈黙』。遠藤周作が江戸時代初期、長崎に繰り広げられたキリシタン弾圧を背景に神の沈黙を問いかけた作品。2016年、出版後50年という年に映画になった。監督はマーティン・スコセッシ。少年時代の夢はカトリックの司祭で、その人生も宗教への思いや習わしに囚われてきた監督。日本の時代劇を外国人が監督するという違和感はない。
 今回、紹介するのは『未来を花束にして』。原題の“Suffragette”(サフラジェット)は女性参政権を求める活動家への蔑称として英メディアが作った造語で、その後、女性運動を指す言葉として定着したものだという。監督サラ・ガヴロン。製作も脚本も全て女性の手になる映画だ。女性たちの参政権獲得を要求する運動が先鋭化し始めた1912年のロンドンが舞台である。50年にわたり平和的に参政権を求めながら、ずっと黙殺され続けてきた女性たち。1912年はカリスマ的リーダー、エメリン・パンクハースト率いるWSPU(女性社会政治同盟)が「言葉より行動を」と過激な抗争を呼びかけ始めた年だった。「言葉より行動を」をモットーに、同盟のシンボルカラーである紫、白、緑の花々を胸や帽子に飾り、女性たちがデモや直接行動に繰り出したのだ。リーダーのパンクハーストは中流階級出身だが、設立当初から労働者階級の女性がメンバーに入っている。階級を超えた、女性として連帯する組織だった。
 女性の運動はヒステリックというステレオタイプなイメージを圧しつけてきた世間。映画も同じだった。サラ・ガヴロン監督は「こんなパワフルな物語をどうしてこれまで映画化しなかったのでしょう」と語る。男性は勿論、女性自身も女性活動家というと怖い人たちというレッテルを貼りつけていたのかもしれない。だが、本作はこの先入見を見事に覆してくれた。
 主人公は7歳から洗濯工場で働き続ける24歳の若い女性。過酷な環境で働き、男性よりも長時間働きながら、賃金は少なく、家に帰れば、家事も育児も一人でこなす。教育もなく、貧乏な若い女性が次第に行動主義に走り始めた女性参政権運動に入り込んでいく姿をキャリー・マリガンが好演。主人公の心情とその変化に「そうだよね、そうだよね」と頻りに頷いてしまった。彼女の自然な心の動きと共に、大きなムーブメントになっていく女性たちの行動が描きこまれた感動作である。
(フリーライター)







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