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評者◆伊達政保
まるで大藪春彦の小説のような血みどろの復讐譚――勝田演劇事務所プロデュース「シェイクスピア流血残酷悲劇『タイタス・アンドロニカス』」
No.3287 ・ 2017年01月21日




■これはまるで大藪春彦の小説、例えば『絶望の挑戦者』のような、血みどろの復讐譚ではないか。シェイクスピアがこんな戯曲を書いていたのか。『タイタス・アンドロニカス』、オイラ題名は知っていたが、初めてその芝居を観た。勝田演劇事務所プロデュース、シェイクスピア流血残酷悲劇と題された、訳・小田島雄志、演出・小笠原響、タイタスに若松武史、対するゴー卜族の女王タモーラに村松恭子という布陣だ。
 冒頭、銃撃による戦闘シーンに驚かされ、現代に翻案したのかと思いきや、舞台は古代ローマ、先帝の跡継ぎを兄弟が争っている。護民官(タイタスの弟)はローマ市民の名において次の皇帝にタイタスを推挙。そこへゴー卜征討を終えた将軍タイタス・アンドロニカスが息子たちとゴー卜の王族を捕虜として凱旋。ローマへの生贄として女王タモーラの息子を彼女の懇願にもかかわらず処刑。先帝への盲目的な忠誠心により、皇帝就任を辞退し、ローマ市民の名において全権を委任されることにより、先帝の長男を皇帝に就任させてしまう。熟慮することもなく先帝の息子兄弟のうち、兄を皇帝にしたことによってこの悲劇は始まるのだ。
 演出の小笠原はリーフレットであやふやな民意によりだれを選ぶかによって、国民の運命が左右されてしまう危うさ、都知事選やアメリカ大統領選について触れているが、現在の安倍政権下の日本をアナロジーしていることは間違いない。
 そして血みどろの悲劇の開始。シェイクスピアが最初に書いた悲劇ということで、その構成は破綻寸前の複雑さだ。ざっとまとめちまおう。皇帝はタイタスの娘を后に所望。その兄は妹が皇帝の弟と婚約していると異議、父タイタスは不忠者として殺害。皇帝はそんな娘は要らぬと女王タモーラを后とする。タモーラは愛人のムーア人と、タイタス一族に息子を殺された復讐をめぐらす。タモーラの二人の息子はタイタスの娘を凌辱し舌と両手を切り取り、夫である皇帝の弟を殺害、タイタスの息子たちに罪を着せる。息子たちの二人は死罪、一人は追放。タイタスは助命のため片腕を切り落として献上するが、二つの首とともに送り返される。追放された息子はゴート族らを糾合しローマヘ進軍、これまた現代の銃撃戦、まるで多民族解放戦線のようだ。タイタスは真犯人がタモーラの二人の息子と知り殺害、人肉パイとして和平談合の席でタモーラに食わせる。無念の意思を汲んで娘を殺し、皇帝、タモーラを殺し乱闘のうちに息絶える、そしてタイタスの息子が皇帝となるという話だ。
 まあ凄まじい。皇帝は生き延び、タイタス一族は滅びるってのが現実だが、それじゃ身も蓋もないやね。







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