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評者◆殿島三紀
自国民すら知らなかったデンマークの戦争悲話――マーチン・サントフリート監督 『ヒトラーの忘れもの』
No.3284 ・ 2016年12月24日




■『誰のせいでもない』『ハンズ・オブ・ラブ~手のひらの勇気~』『グレート・ミュージアム~ハプスブルク家からの招待状~』『ミス・シェパードをお手本に』を観た。
 『誰のせいでもない』。ヴィム・ヴェンダース監督。1人の男と3人の女とその子供たちの12年の年月を描いた作品で、久々の劇映画。だが、ただの劇映画ではない。主人公が内省する心の奥行きを表現するシーンに巨匠は3Dを使っているのだ。さすがヴェンダース。目の付け所が違い過ぎる。
 『ハンズ・オブ・ラブ』。レズビアンの女性2人が主人公の実話。監督はピーター・ソレット。脚本はロン・ナイスワーナー。エイズに向き合った名作『フィラデルフィア』(1993)の脚本家である。恋に落ちた女性警察官ローレルと自動車整備士ステイシー。末期ガンを宣告されたローレルがステイシーのために警官遺族年金を遺そうと闘う感動の実話だ。
 『グレート・ミュージアム』。1891年ハプスブルク家のフランツ・ヨーゼフ1世の命で設立、645年にわたり君臨したハプスブルク家の王侯たちが収集した膨大な美術品や珍品を収蔵するウィーン美術史美術館。創立120周年を迎えた2012年、大規模な改装工事にとりかかる。その工事に密着し、撮影した。ヨハネス・ホルツハウゼン監督作品。
 『ミス・シェパードをお手本に』。劇作家アラン・ベネットとミス・シェパードとの奇妙な共同生活を描いた作品。ロンドンの高級住宅地。少しずつ車を移動させながら路上生活する謎の老女。住人の親切には悪態で応え、子供たちを怒鳴りつけ、悪臭を放つ彼女をマギー・スミスが好演。ニコラス・ハイトナー監督作品。原作と脚本はアラン・ベネット。これも実話だ。
 今回、紹介する作品は『ヒトラーの忘れもの』。原題は“Land of Mine”(地雷の国)である。第二次世界大戦後にデンマークに置き去りにされたナチスドイツの少年兵たちを描いた、デンマーク人ですら知らなかった史実。監督・脚本を担当したのはマーチン・サントフリート。ジャンルとしてはナチものである。だが、13、14歳の少年もドイツ軍であればナチなのか。少年が主人公となるとついつい真実が見えなくなってしまうことには反省しつつも、心の軸がどうしてもぶれがちになるのをお許しいただきたい。
 さて、映画の舞台はデンマークである。この国からドイツにつながるユトランド半島の西海岸は、北海に沿って遠浅の海岸線が続く美しい地形だ。だが、第二次世界大戦はこの海岸線を変えてしまう。1942年ナチスドイツは大西洋側からの英米軍の侵攻に備え、スカンディナヴィア半島からピレネー山脈に至る海岸線に「大西洋の壁」と呼ばれる防御線を築き始めた。総延長は約2600km。この長い防御線に砲台、トーチカを築き、無数の地雷を埋めた。デンマークの西海岸は「大西洋の壁」のうち400kmを占め、そこに埋められた地雷は約150万個と言われている。
 デンマークに駐屯した20万人のドイツ将兵のうち19万人ほどは1945年6月までに武装解除され、ドイツに戻される。しかし、少年兵を含む1万人を超える兵士が「捨てられた敵国人」としてデンマークに残され、様々な任務に充てられた。
 大戦末期にドイツの徴兵年齢は10代半ばまで下げられている。日本でいえば中学2~3年か。こうした少年兵たちがデンマークで150万個に及ぶ地雷撤去作業に従事させられたのだ。
 舞台は美しい白い砂浜と青い海。登場するのは細いうなじが子供子供した幼い少年兵。そして、白砂に埋められた地雷。この皮肉な対比が観る者をひきつけてやまない。だが、救いのない映画ではなかった。少年兵たちを監督するデンマークの軍曹と少年たちとの触れ合いが感動的なラストにつながり、虚脱するような安堵感に包まれた。
(フリーライター)







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