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評者◆小嵐九八郎
老いと死と、仏教的諦観との角逐
陸沈
齋藤愼爾
No.3283 ・ 2016年12月17日




■江戸時代の与謝蕪村について書いている。この時代の俳諧は、連句の会を顔見知りでやり、最初の五七五の発句に仲間の一人が付句として調和させ、長句・短句と続けていて、五七五の独立した詩の形は明治以降に正岡子規によってできたとは御存知の通り。つまり、悪くいえば座の凭れあい、良くいえば我れと他者との協同の文学が江戸時代の俳諧だった。
 しかし、蕪村の発句、長句自体、独り立ちしていて、とんでもない近現代的魅力を放っている。これはたぶん、現実を写し取ることはしただろうが、想像力の凄みからきていると推測する。そして、この想像力の養いというか鬩ぎあいは、蕪村が画師として南画ばかりでなく草書的な軽妙なる画や俳画に挑んだことからきているのだと思う。
 いずれにしても、自称歌人から俳諧、近現代の俳句の世界を見つめると、その最も短い詩型は無駄を殺ぎ、短いゆえに読み手の空想力は極限的に膨らみ、ゆえに、先の大戦中は、詩人・歌人より厳しい弾圧を受けたわけで、畏怖し、羨ましくすら感じる。
 この、ほぼ六十五年間の現代でも、読み手を仰天させ、へたり込ませ、揚句に、深い感動をよこす俳人がいる。
 《寒き種子分ち農兄弟田に別る》
 《人が人焼くや梟の淋しさで》
 《深深と乳房混みあう螢狩》
 などを詩型に託してきた齋藤愼爾氏である。美空ひばりがベルリンの壁の崩壊の年に死んだ時は俺も三日間ぐらい酒しか喉を通らなかったが『ひばり伝――蒼穹流謫』(講談社)、当方の時代小説の心の師である山本周五郎についての『周五郎伝――虚空巡礼』(白水社)の散文も書いている。
 この秋、氏は『陸沈』(東京四季出版、本体2000円)を出した。一九三九年生まれである。老いと死と、仏教的諦観との角逐、故郷があるのに喪失する思いなど漂泊しあっている。
 《血をうすく眠るや吾れの涅槃変》
 《斧始めどの人柱から始めよう》







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