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評者◆ベック
運命を受け入れざるを得ない人々
アンニョン、エレナ
金仁淑著、和田景子訳
No.3281 ・ 2016年12月03日




■韓国文学を読むのは初めてだ。短編が七編収録されているが、どれも時代の趨勢に影響され、運命を受け入れざるを得ない人々が描かれている。そのほとんどが女性だというのも、作者自身が投影されているのかもしれない。
 遠洋漁業で各国に出向いていた父が過去に港でエレナという子を作ったと聞かされていた女性が、海外旅行に行くという友人にそのエレナを探してくれと頼む表題作、妻に先立たれて急速に老いてゆく父を見据える息子を描く「息―悪夢」、端午の日に生まれたビョンスクとスンウクという双子の物語「ある晴れやかな日の午後に」、離婚してブラジルへ行ってしまう母と残された娘とその二人の間に横たわる秘密「チョ・ドンオク、パビアンヌ」、李完用暗殺事件の顛末を描く「その日」、妻と娘と離れて暮らす男性が体験する一夜の出来事「めまい」、出稼ぎに行ってほとんど家にいない夫との間に十二人の子をもうけた女性の話「山の向こうの南村には」……。
 ちょっと簡単に書きすぎたが、収録されている七編の物語は、こういうシチュエーションで話が進行してゆく。そこには喪失と覚醒が描かれ、唯一「めまい」だけが、その後を孕みながら物語が閉じられるが、他の物語はそれぞれなんらかの答えをみて物語は終結する。しかし、そこに安息はない。かといって絶望があるわけでもなく、ただ痛みだけが遺される。さけられない運命によって傷つけられる私たち。その傷がもたらす癒えることない痛み。しかし、それは人間が許容できる痛みでもあるのだ。女性の受ける痛みは、ことさらひどいものだが、それも時代が招いた必然的な痛みであり、真っ当に生きることが、すなわち幸福であるなんて幻想を打ち砕くに十分な痛みなのである。
 こんどは、この人の長編も読んでみたい。叶うことならば。

選評:「世界文学」なるものが提唱されて以来、各国の様々な詩や小説が一つにまとめられるようになった。だが、それは単に作品の倫理的な良し悪しや売り上げとは関係ない。人の数だけ物語があり、物語の数だけ人がいるのだから、世界を知るためには文学を読むべきだ。本書のように、海外の作品がたくさん翻訳され、多くの読者のもとに届けられることを強く望む。
次選レビュアー:谷内修三〈『昨日ヨリモ優シクナリタイ』(徳間書店)〉、sawady51〈『ルポ 貧困女子』(岩波書店)〉







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