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評者◆小嵐九八郎
主人公の男はSMのMの極
異端者
勝目梓
No.3280 ・ 2016年11月26日




■国立社会保障・人口問題研究所が発表したところによると、去年2015年の18~34歳の未婚者の男で「異性の交際相手がいない」が約7割、女で約6割とのこと。「青年の精子が薄くなってる」なんて話も5年前ぐらいに新聞に書かれていた。当方はナショナリストではないが、電車の中のカップルがスマホを手に互いを見ずに語り合ったり、夜の公園のキスの最中もスマホをいじっている場面を見ると、この先はどうなるのかと心配してしまう。
 この心配は、たぶん欧米の宗教・思想に俺が長い間に染まってきたからだろうと反省している。『旧約聖書』ではなにしろユダヤ民族を殖やす性愛はOK。ゆえにソドムが神の罰を受け滅びる。一夫一妻制はたぶん『新約聖書』のイエスの思いからきているはず。LGBTに対してはイスラムも厳しいと聞く。それで、当方の書いた小説も五割がた偏見に満ちていたと頭を垂れる。済んませんです。
 そんな俺を更にぶちのめす小説に出会った。大衆文学の先端を走り続け、この七、八年は現代史の裏が絡む実に哀しくなる性愛小説をものしている、1932年生まれの作家、勝目梓氏の『異端者』(本体1700円、文藝春秋刊)がこれだ。84歳の作家の小説です。
 どうも、昔、昔、大昔の過激派の、今では時代に置き捨てられて久しい者からこの小説についてあれこれ語るのはしんど、胸が痛むのではあるが、1965年の「日韓条約」粉砕とか、米国の原子力潜水艦の横須賀寄港阻止あたりの時代をピークとする、性的少数者のテーマがこの小説だろうと推し測った。
 母との相姦、それへの罪悪感を含めてのホモ・セクシャルへの思い込みとパワーと疾走と実際が、少なくとも三島由紀夫の『仮面の告白』の二倍以上の迫力とリアリズムでくる。
 悩みつつ、生涯的に結ばれるのは、レズが本道の女とである。わたしゃ、偏見と差別とおのれの欲に勝てないので、ほっ、ではあるけれど、主人公の男はSMのMの極。呻きますな。
 勝目梓氏は今年の三島賞の蓮實重彦さんの『伯爵夫人』(新潮社)を新聞紙上の記事では「痛快なポルノグラフィー」と誉めているけれど、読み較べると面白いですわな。







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