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評者◆ベイベー関根
アベシンを現在にどう甦らせるか。
やさしい人
安部慎一短編集
No.3279 ・ 2016年11月19日




■あれ、なんで今年は安部慎一だったんだっけ? ともかく夏に新宿、中野、阿佐ヶ谷、国立で「中央線沿線四箇所安部慎一展」ってのが開かれたんだよな。
 安部慎一、通称アベシン。1970年に『ガロ』でデビュー、私小説的なアプローチと写真をもとにしたリアリスティックなタッチで注目を集めるが、のちに精神の均衡を逸し、九州の田川に戻って、ごく散発的な創作活動を続けている(散発的なのは発表されたものだけで、創作されてるのはものスゴい量という噂も聞くけど)というまさに伝説のマンガ家だ。
 とはいうものの、実をいうと自分では昔からちょっと苦手でさー、「70年代のダメさ」を体現しているように見えてたんだよね。はぐれものぶって、たいしたこともしないうちに人生ダメにしちゃうパターン。だけど、その見方は我ながらちょっとヘンケン入ってんなー、いつか読み直す機会があればなーと思っていたんだよな。
 この展覧会に合わせて、『やさしい人』『闇の公務員』『キツネに化かされた女』と都合3冊の短編集が出た。別に売れるからっていうわけじゃなくて、裏で奔走した編集者がいたってことだと思うけど。
 このうち後ろの2冊はレアもの集なんで、ちゃんと読むなら、ベスト盤的な構成の『やさしい人』がオススメだ。これは確かにいい編集で、いろいろな本がこれまで出ているわりには、こういうかたちで全体像を振り返れるものはあんまなかったような気がする。お買い得!(たぶん)
 なるほど、作家としてやりたかったことはそれなりに見えてくる。話の作り方や、写真を撮ってそれを描き写すという手法は、昔はやや安直に思えたけれど、構成に対する意識、描くときに何を取り出し何を捨てるかという判断、対象へのフェティッシュ、それらがセクシュアルな人間関係(や自己憐憫)をめぐるストーリーをくぐりぬけるときにやっぱり輝くんだな。しかし、それを自分でも統御できなくなると……。
 ところで、そんなことを考えていたら、まさにそういう思いを裏づけるような作品が登場しちゃったんだぜ。川勝徳重「電話・睡眠・音楽」on トーチweb!
 これまで貸本テイストの作品を発表していた若い作者だが、なんとここでは渋谷のクラブ(語尾が上がる方)が舞台。ナウいやん! しかして、絵に対するアプローチはほとんど上に書いたことを現代に甦らせたようなもんなわけよ。描かれてるのはセクシュアルな人間関係というよか、人との距離をちょっとつかみかねてるような状態の描写で、こちらは現代的といっていいんじゃないかな。それが絶妙にマリアージュして、読むもののうちに潜む感覚と激しく共振するんだな。最前線にして、いきなり古典の風貌を備えた傑作で、執筆に1年近くかかったというのもむべなるかな。端倪すべからざる才能の登場だ。無料で読める上に、小西康陽の推薦文も素晴らしいので、これだけはお見逃しなく!







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