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評者◆秋竜山
「俺は悪くない」、の巻
No.3277 ・ 2016年11月05日




■山岸俊男『「日本人」という、うそ――武士道精神は日本を復活させるか』(ちくま文庫、本体八四〇円)では、〈自己高揚傾向〉と〈自己卑下傾向〉について。
 〈心理学に、「自己高揚傾向」という言葉があります。(略)たとえばあなたが何かむずかしいことにチャレンジして、それに成功したとします。その成功は、あなたの実力がもたらしたものであるかもしれないですが、本当のところ、それは偶然の結果であったかもしれません。しかし、たいていの人は成功したら「それは自分が頑張ったからだ」とか「自分には才能があるんだ」というふうに、自分に成功の原因があったと考える――こうした心の傾向を指して、自己高揚と呼ぶわけです。〉〈ところが、心理学研究の発展の中で、「人類普遍の性質」とされてきた自己高揚傾向が日本ではあまり見られないばかりか、むしろ逆の「自己卑下傾向」が観察されるとするレポートが、二〇世紀末になって相次いで出されるようになりました。〉(本書より)
 成功したからには自慢したくなるものである。誰だってそーだと思う。それが人間というものではないだろうか。場合によっては自慢したいばっかりに努力して成功という結果をつかみたいのである。つまり、成功者というわけだ。堂々と自己高揚的に考えればよいだろう。ところが他人の自慢ほど面白くないものはない。どっちかというと失敗話のほうが面白い。失敗話にはねたみがない。アハハと笑えるのである。もし、心のどこかで気の毒に思えたとしても、本当のところどーなんだろうか。テレビドラマなどで、気の毒なストーリーほど受けがいいだろう。
 〈たとえば欧米人などは、自分の成功を「自分自身の努力の結果」と自己高揚的に考えるけれども、日本人は「単に自分は運がよかっただけ」と考える傾向がある。また、逆に何か失敗をしたときに、欧米人は「運が悪かっただけ」と考えるのに対して、日本人は「自分の努力が足りなかった」と捉えるなどという具合に、欧米人と日本人では自己評価のバイアスが逆方向になっているのではないかというわけです。さらに研究が進むと、どうも自己卑下傾向は日本のみならず、東アジア全体に広がるものではないかと言われるようになってきました。〉(本書より)
 なるほどと、思ってしまうが、面白いのは、
 〈つまり、日本人が自己卑下傾向を示すのは、そういう態度を取ったほうが日本社会ではメリットが大きいから謙虚にしているだけのことであって、「日本人独得の心の性質」が産み出したものでも何でもない。要するに「タテマエ」と「ホンネ」を使い分けているだけのこと。もっとはっきり言えば、日本人の心が欧米人に比べて本当に謙虚であるという保証はどこにもない、というわけです。実は筆者は、こちらの考え方、つまり日本人の自己卑下傾向は日本の社会にうまく適応していくための「戦略」にすぎないという見方に賛成です。〉(本書より)
 このような文章に接すると、何ともうれしくなってしまう。そーだ!! それでいいのだ日本人よ!! という気持になる。日本人よ負けるな!!という気持になるのは、間違っているだろうか。







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