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評者◆添田馨
象徴と民心①――宮内庁の幹部人事が物語ること
No.3276 ・ 2016年10月29日




■今年の7月13日に放映された天皇の「生前退位」のスクープと、8月8日のビデオメッセージについて、これまで私はすでに何回か発言してきたが、新聞報道等による以外にひとつの確証も持ち合わせている訳ではなかった。しかし9月も終盤にきて、ある愚劣な政治的振る舞いが、逆説的にひとつの紛れもない“真実”を炙りだしてくれたことに、私はいま注目している。
 その振る舞いとは、9月23日に発表された宮内庁の幹部人事のことである。報道によると風岡典之・宮内庁長官が26日付で退任し、山本信一郎次長が長官に昇格する。そして、次長のポストには、西村泰彦内閣危機管理監つまり官邸中枢の人間が新たに就任するという。
 本来なら風岡長官は来年3月末までは務めると見られていたので、半年も任期が早まったのには、安倍官邸の強い意思が働いたと見るのが妥当だろう。事実、一部の報道によると「お気持ち表明に関し、誰かが落とし前をつけないと駄目だ」(政府関係者)とか、「陛下が思いとどまるよう動くべきだった」(同)との声があるという。
 従ってこうした“報復人事”がなされたこと自体、天皇陛下のあのビデオメッセージが、官邸のコントロールを脱した、天皇ご自身の正真正銘の「お気持ち」に他ならなかったことを裏側から雄弁に物語るのである。昨今の何ひとつ信用のおけない報道環境のなかで、ようやく私たちは唯一信じられるなまの声に触れることができた訳だ。この意味は途轍もなく大きい。
 毎日新聞が9月3日と4日に行った全国世論調査によると、天皇の生前退位に「賛成」は全体の84%を占め、「反対」は4%だったという。また「賛成」のうち8割以上が一度限りの特措法ではなく、退位に関する恒久的な制度を求めているとも報じられた。安倍官邸の思いとは裏腹に、民心の大半は天皇の「お気持ち」にこうして温かく寄り添うものだった。象徴と民心――見えにくかったこの繋がりを私はもっと追いかけたい。







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