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評者◆秋竜山
ジーンとくる「トントン」の音、の巻
No.3274 ・ 2016年10月15日




■鎌田實『1%の力』(河出文庫、本体五〇〇円)。1%からの連想は、1円玉。よくマンガなどで1円玉には縁がある。しかし、内容的にはあまりよろしくないようである。だから、マンガになるのである。もし、1円玉が道路に落ちていたら、どーなるか。それがマンガである。1%というものが道路に落ちていたら、やっぱりひろわれないだろうか。人前でひろってポケットへ入れたら笑われそうである。知らんぷりして通り過ぎたら人情味もないか。1円玉をひろって、それを交番へとどけたとしたら、お巡りさんに叱られそうな気がしないでもない。1万円札なら、どーか。1円玉をおろそかにすると、1円玉に泣くといわれたりする。1%もそーなのか。どっちも1円とか1%から始まるのである。大昔、その頃若い青年、いや少年といったほうがいいかもしれない。マンガ家を夢みていたのであるが、誰がどこで聞いてきたのか、天才は99%が努力で1%の才能であるということであった。この一言に勇気をもらった。集まる仲間たちは誰もが自信がなかった。マンガの才能なんかないくせにマンガ家になりたいと、まさに夢みたいなことであった。99%努力すれば自分たちも、もしかするともしかするかもしれないと思わせる力強いものがあった。才能のないものは努力する以外にないのだと、このことを紙に書いてカベなどにはった。才能がなくても努力なら自分にもできる、というこれが甘かった。努力が足りなかったのだろうか、みんなマンガ家にはなれなかったようだ。
 〈99%一生懸命努力したけど、まだ全力でなかったことに自分で気がつきます。この後、1%が生きるためには大事だと気がつくのです。100点は、僕の想定とはまったく違う答案ができた時、出題した僕自身が嬉しくなってしまうような答案を見た時、それは僕自身が学べるということを意味しています。学ばされることも多いです。いつも満点をとってきた子は99点はショックです。〉(本書より)
 本書でジーンときたのは、台所から聞こえてくるトントンという音。
 〈家に戻って。いつも自分が座るところに座って、夕陽が落ちるのを見ていました。先生、夕陽がきれいでね。目を奪われていたんです。(略)その時です。お勝手からトントンという音が聞こえ出したんです。女房のまな板の音です。こんな音、何十年も聞き続けていたはずなのに、一度も意識したことがありませんでした。女房もきっと意識していないんです」奥さんが言葉を受け取った。「何にも意識していません。でも、この人が家に帰ってきてくれて、私は嬉しくて、無意識の中で心が躍っていたんです」なるほどな、と思った。嬉しいトントンや、悲しいトントンや、怒りのトントンを、人は人生の中で何度も繰り返してきたのでしょう。〉(本書より)
 入院していて、一時帰宅したおじいさんの話である。まな板を叩くトントンという音を聞いている。もうそれだけでジーンときてしまう。もしかすると泣きだしてしまうかもしれない。そういう音もだんだんと聞こえなくなっていくような気もする。







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