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評者◆keytone
人工知能という新たなテクノロジーとの闘い
人工知能は碁盤の夢を見るか?――アルファ碁VS李世ドル
ホンミンピョ/金振鎬著、洪敏和訳
No.3273 ・ 2016年10月08日
■アルファ碁もイ・セドルも、テクノロジーに関心の高い人か、囲碁ファンでなければ知らないはずだ。しかし、アルファ碁vsイ・セドルで紹介される、人工知能と人類との戦いの序章は、ギークと囲碁ファンだけでなく、未来の世界に関心をもつ、多くの人に広く読まれるべき良書である。
本書では、そんなアルファ碁とイ・セドルとの一局一局を囲碁のいろはを知らない読者でも楽しめるように、つぶさに解説し、わかりやすく臨場感を伝えてくれる。 まず、「アルファ碁とは何か」というところから本書は始まる。アルファ碁とは、グーグルが買収したディープマインドのテクノロジーをベースとした「人工知能囲碁プログラム」である。 以下、テクノロジーの詳細な記載があるので、興味のある方のみ読んでいただきたい。 チェスでは「ディープブルー」がチャンピオンを降したが、囲碁ではプログラムは人類にかなわないとされてきた。それは、囲碁の手の多さと、石の価値が変化すること、が要因だった。 碁盤上に250個、1局で150手まで進むとしたとき、手数は250の150乗となり、約10の360乗となる。それは、チェスの10の123乗よりも比較にならないほどに複雑であるため、勝利の保証ができる最適の手をスパコンが探索するのは不可能に近い。 次に、囲碁の石自体の価値は状況によって変化するため、有利不利を評価することが難しい。チェスや将棋は、駒の機能が変わらず独立しており、戦況を把握しやすいが、囲碁は、重要な石が捨石作戦で不必要な石になったり、重要でない石が重要な価値に変わることもある。 従来の囲碁プログラムは、ランダムに選択したサンプルだけを検討し、シミュレーション回数を増やすことにより、勝率を高める手法(モンテカルロ・ツリー探索)をとっていたが、その手法の正確性はプロのレベルに達してはいなかった。 では、「アルファ碁」はどのような方法で、世界一の棋士をうちまかす手を打てるようになったのか。アルファ碁の勝利は、囲碁プログラムで初めて深層人口神経網を利用して、優れた評価関数、評価網を開発したところによるとされている。 アルファ碁を支えるテクノロジーは、深層学習の代表的手法である深層人口神経網(Convolutional Neural Network)であり、比較的新しい機械学習理論とされている。 アルファ碁の深層人口神経網には、指導学習ベースの政策網と、それを機械学習で改善した政策網、及び評価網があり、モンテカルロシミュレーションも用いている。 政策網の指導学習では、アマ高段者のネット囲碁の棋譜から3000万近い盤面状況を抽出し、パターン分析をして、57%の正確率で次の手を予測できるようになったのだという。 次に、対極での勝利につながる次の着手の選定精度を高めるために「機械学習」をしたアルファ碁は、現在のモデルと過去のバージョンのモデルから任意に抽出したモデルとで数百万回の対局を繰り返し実施し、勝利につながる着手を自ら学習し、指導学習のみのモデルとの対局で80%以上の勝率を記録できるまでに成長したのだ。 加えて、アルファ碁の恐ろしさは、その汎用性にある。ディープブルーは、チェスだけのために作られたコンピュータであり、ワトソンも音声を認識し、質問と回答にのみ特化したシステムだが、恐ろしいことに、アルファ碁は、人間のように経験を通じて学習し、問題を効果的に解決する汎用プログラムであるという。つまり、アルファ碁は囲碁だけでなく、人間に解決が困難な気象予測や複合疾患の解明などにも使われるようになり得るというのだ。 そんなアルファ碁を開発したのも、あのグーグルである。「機械学習分野における様々な世界最高の専門家の50%程度がグーグルに所属している」。グーグルは、人類代表としての地位を確立しつつある。 本書は、人類と人工知能というテクノロジーとの、熱い戦いのノンフィクションドラマという側面もある。「本当に勇気のある人は、恐ろしさを感じない人ではなく、恐ろしさを克服する人だ」。イ・セドルが苦悩した7日間の戦いを追跡し、本書を通して人間囲碁棋士を応援するなかで、なにか世界平和にすらつながるような、人類が一丸となる感覚を覚えた。 人類が、人工知能の夢を見る日は近い。 選評:人間と機械の違いが「心」だと言うのなら、勝負の世界におけてそれはどのように作用するのか。いや、むしろ「心」なんてものがない(?)機械のほうが、勝負事には向いているのかもしれない。日々進化していく人工知能を前にして、人間は汗を滴らせながらなんとか悪あがきしていくしかない。機械の予想を越えた新たな一手が生まれるかも |
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