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評者◆殿島三紀
ニュー・シネマ・パラダイスからITへ――ジュゼッペ・トルナトーレ監督『ある天文学者の恋文』
No.3272 ・ 2016年09月24日




■『ミリキタニの猫 特別篇』『リトル・ボーイ――小さなボクと戦争』『人間爆弾「桜花」――特攻を命じた兵士の遺言』などを観た。期せずして全て戦争の映画である。
 『ミリキタニの猫』。実は本作は10年前に上映されている。2001年9月11日のNYテロが60年前の戦争の影と、そのまま異国で埋もれる筈だったジミー・ミリキタニという日系老人ホームレスの稀有な人生を引きずり出したドキュメンタリー映画だ。偶然路上で絵を描く彼と出会い、9・11以降、棲み処を失った彼をアパートによんで一緒に住んだリンダ・ハッテンドーフが監督。今回は2001年以前のジミーを知る人たちの証言から構成された短編『ミリキタニの記憶』(監督Masa)と同時上映である。
 『リトル・ボーイ』。監督・脚本・製作はメキシコ移民のアレハンドロ・モンテヴェルデ。第二次世界大戦も終わりに近づいた米・西海岸の小さな漁村。背が低いのでリトル・ボーイとからかわれる8歳のペッパーはパパが大好き。でも、パパは戦争に行って日本軍の捕虜に。その頃、強制収容所から釈放された一人の日系人が町に住み始める。こんな田舎にも日本へのすさまじい敵意や差別が渦巻き、ペッパーも彼に石を投げるのだが……。
 リトル・ボーイは広島に落とした原子爆弾のニックネームでもある。8月6日広島に原爆が投下された日、アメリカ中で起きていたであろうことを監督はメキシコ移民という第三者の眼で客観的に描いた。
 『人間爆弾「桜花」』。第二次世界大戦末期、大日本帝国海軍によって1944年に開発され、45年に実戦に投入された特攻兵器「桜花」。特攻のためだけの兵器として開発、実用化、量産された航空特攻兵器だ。本作には、日本で最初の特攻隊、「桜花」の第一志願兵となりながらそれを認められず、出撃者を指名する役割を与えられた93歳の林富士夫が出演。監督・澤田正道のインタビューに淡々と答える様子を74分にわたって映し出した。林氏の遺言ともなったドキュメンタリーだ。
 今回紹介するのは『ある天文学者の恋文』。天文学を学ぶ女子大生エイミーに突如告げられる恋人エドの訃報。だが、彼女はまさにその時、届いたばかりのエドからのメールに微笑みながら目を通しているところだった。二人は深く愛し合い、天体を研究する教授と学生として、尊敬し合い、純粋な絆で結ばれていた。エドの死が信じられないエイミーは彼が住んでいた街を歩き回るが、どこにも彼の気配はない。と、そこへ、まるで彼女を見ていたかのようなメールが再びエドから届く……。
 なんともミステリアスな本作。監督は名作『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレである。『鑑定士と顔のない依頼人』(2013)以来、3年ぶりの新作だ。ITの進歩で夢物語とは思えなくなった死者との通信。ちなみに、本作の原題はCorrespondence(通信)。
 映画の世界にも、テクノロジーを介在させた本作のような話やAI(人工知能)との恋愛を描いた『her/世界でひとつの彼女』(2014、スパイク・ジョーンズ監督)などが登場し始めている。『her』はスカーレット・ヨハンソンがAIの声で出演していたことでも話題になった映画。わずか2年前の作品だが、ぶっ飛び過ぎていて「ありえない」と思ったし、本作も「そんなに先の先まで考えてメールを出すなんて、頭の良い人は違うもんだ」と的外れな感心もした。しかし、あるところで、故人のメッセージを本人の声でパートナーや子供の誕生日や記念日に届けるというアプリケーションが実用化されたと聞いた。その日が来るとロボットが起動してメッセージを聞かせてくれるのだという。なるほど、そういうことか。トルナトーレ監督の先進性にも驚いたが、物珍しさに終わらせない本作の映画としての完成度に脱帽である。
(フリーライター)







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