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評者◆秋竜山
愚痴の大切さ、の巻
No.3272 ・ 2016年09月24日




■ニュースは世界を駆けめぐる、というけど、その日のどの新聞も、どのテレビも、「本日はニュースはありませんでした」と、なっていた。と、いうこと自体がニュースであろう。隣の親父が隣の親父の頭をポカリと叩いた、ということがすでにニュースとなる。それが世界中を駆けめぐるということになるだろう。一日の朝はニュースから始まる。テレビに映し出されるニュース。と同時に、愚痴が口から飛び出す。ニュースがたのしいのは、その愚痴のいかんによってであろう。女房が、まず愚痴る。「まったく、あなたって、よくもまァ朝から、そんなに愚痴ばかりいえるものだわね。もー、つきあってられないわ」。これも、誰のせいでもない。ニュースのせいである。毎朝、朝刊を見るのがたのしみである。毎朝、茶の間に新しい愚痴がとどけられる。だからこそ生きていけるという人もいるだろう。新聞の休刊日の淋しさといったら、もうたまらないのである。もう、生きていく価値がないとさえ思えてくる。いかに人間は愚痴ることが大切であるか。国民は新しいニュース、より新しいニュースを毎日待っているのである。
 本田有明『ヘタな人生論より葉隠――あなたの生き方に明快な答えを出してくれる本』(河出文庫、本体六四〇円)によると、〈また、こうした愚痴というものは一種の習慣的言動であって、本人が自覚しさえすればわりと簡単に改めることができる。(略)雨の日には雨の中を、風の日には風の中を、世代を問わず支援されている詩人・相田みつをの二行詩から。つまらない愚痴を人前で言わないためには、いっそのこと腹をくくってしまえばよい。雨が気になるのは、雨粒に濡れまいと過剰に反応してしまったからであり、暑いのが気になるのは、汗をかくのがイヤだと気持のうえで抵抗してしまうからである。〉(本書より)
 雨の温泉場。温泉露天風呂に傘をさしてはいっている客。全身が湯舟の中、頭だけが湯の中から出ている。その頭を雨にぬらせないため、傘をさしている。このような奇妙なことを人間は平気でやるのである。
 〈「ご尤も」と「ご覧の通り」のふた言だけで、ほんとうに人を説得できるものだろうか。思わず「しかしですね」と言い返してしまいそうだが、いやいや、それがいけないのだ。小林秀雄がわざわざ批評の対象に取り上げているのだから、まずは「ごもっとも」と虚心に従ってみよう。(略)人の意見をていねいに拝聴する人、自分のことを得意げに語らない人、そういう人に私たちは一種の人徳を感じ、場合によっては敬意をいだく。〉(本書より)
 なかなか、できるものではない。ある日のことだった。我が家の小二の孫が、「たしかに」と、いう言葉をさかんにいうようになった。もちろん意味などというものがわかるはずもない。「たしかに」を連発する。どこでおぼえたのやら。それを面白がって、家中のものが「たしかに」を、いっては笑いあう。よく考えてみると、この言葉ほど、たとえば世間話の中であっても「たしかに」と、いわれて怒る人はまずいないだろう。むしろ、いい気持ちにさせられるのかもしれない。話していてお互いに「たしかに」を連発することによって、「たしかに」いい雰囲気をつくってくれるのである。たしかに……。







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